研究実績の概要 |
神経シナプス間の情報伝達は、シナプス前部とシナプス後部の精密な協調によって調節される。最近、超解像顕微鏡解析により、シナプス前部の神経伝達物質放出やシナプス後部の受容体集積に関わる蛋白質は、シナプス膜近傍で特殊なナノドメインを形成し、互いに対面整列していることが報告されはじめた(シナプス-ナノカラム説)。本研究ではパルミトイル化脂質修飾関連酵素群とてんかん関連分泌リガンド・受容体LGI1・ADAM22を駆使して、1) シナプス-ナノドメインの形成機構、2) シナプス-ナノカラムの実体と制御機構、3) それらの破綻とシナプス疾患との関連性を解明する。2019年度は、脱パルミトイル化酵素ABHD17の活性制御機構と生理的意義の解明を試みた。タグ付きABHD17のノックインマウスを用いて、ABHD17結合タンパク質を網羅的に同定し、活性制御に関わるタンパク質や新たな基質候補タンパク質を複数得た(未発表)。また、LGI1-ADAM22によるシナプス架橋形成の生理的意義を解明するために、自己免疫性辺縁系脳炎患者のB細胞から、LGI1リコンビナント抗体を単離した(Pruss博士らとの共同研究)。私共は、LGI1抗体の特異性と抗原部位を明らかにし、N末側のLRR(Leucine Rich Repeat)領域とC末側のEPTP Repeat領域を認識する抗体群に分類した。これら自己抗体をマウスの海馬組織に添加し、神経細胞の興奮性を電気生理学的に評価したところ、LRRとEPTPのいずれに対する抗体も、有意に神経細胞の興奮性を高めることが明らかとなった(Kornau et al, Ann Neurol, 2020)。これらの結果は、LGI1自己抗体は、LGI1-ADAM22によるシナプス架橋を破綻させることにより、神経細胞の異常な興奮を惹起することを示唆する。
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