本研究は、ほ乳類における精子ゲノムのシトシン修飾の変化が次世代の個体に伝わる可能性を検証することを最終的な目的としている。特にメチルシトシンのみならずヒドロキシメチルシトシンも含めて網羅的に解析することで、個体レベルでの経世代的なエピゲノム修飾についての新しい知見を得ることを目指ものである。このため、我々が新たに開発したメチルシトシン、ヒドロキシメチルシトシンを同時に1分子ずつで解析する画期的な手法であるEnIGMA法をゲノムワイド解析が行えるよう改良を加え、これを用いてマウスの精子のゲノムのシトシン修飾を網羅的に解析するとともに父親の生理的な条件による精子のエピゲノム修飾の変化や、精子形成過程でのシトシン修飾変化の解析に道を開くことを目的としている。 これまで、EnIGMA法について改良を重ね、ゲノムワイド解析への適応が可能となるEnIGMA-seq法として技術的な目処を立てることに成功した。また、次世代シーケンサーによる解析から得られるデータを用いて全てのCpGについてメチルシトシンとヒドロキシメチルシトシン、非修飾シトシンの同定を行うパイプラインを構築した。さらに、最近EnIGMA法で用いているbisulfite反応に代わるEM-seq法というDNAの切断を伴わない変換法が報告されたため、これをEnIGMA法に組み込むための検討を行った。 実際に改良を行ったEnIGMA-seq法を用いてマウスの精子において標準的なメチルシトシン、ヒドロキシメチルシトシンの全ゲノムプロファイル取得を試み、ヒドロキシメチルシトシンが有意に存在している領域の同定を試みた。しかしながら、EnIGMA法による検出限界を超えてヒドロキシメチルシトシンの集積している領域を見出すことはできなかった。
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