研究実績の概要 |
脂質メディエーターであるスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)は、細胞内に局在するスフィンゴシンキナーゼ(Sphk1, 2)によるスフィンゴシンのリン酸化により生成される。S1P受容体(S1PR)は無脊椎動物のゲノムには見つかっていないので、脊椎動物への進化の過程で多様な生理活性を獲得したと考えられる。S1Pは、哺乳類ではリンパ球の再循環を調節していることが知られている。我々は、心臓発生に異常を示すゼブラフィッシュ変異体の原因遺伝子としてS1P輸送体Spns2を発見し、新規の生理機能としてS1Pシグナルが心臓前駆細胞の移動を制御していることを明らかにした。 ヒトでは、S1Pと癌や自己免疫疾患との関連性が指摘されており、S1Pの生理機能の解明は、上記の難治性疾患の理解につながる可能性がある。Sphk1, 2二重欠損マウスやspns2およびs1pr2ゼブラフィッシュ変異体は発生致死であるので、形態形成におけるS1Pの役割は不明な点が多い。本研究は、S1Pの新しい生理機能をS1PR機能欠損ゼブラフィッシュ変異体の表現型解析から解明することを目的としている。我々は、ゲノム編集技術CRISPR/Cas9を用い全てのS1PR変異体の作成に成功している。それらの表現型解析からs1pr2変異体が二叉心臓の表現型を示すことが明らかになっているが、それ以外のS1PRを単独で破壊した場合には(s1pr1, s1pr3a, s1pr3b, s1pr4, s1pr5a, s1pr5b変異体)、顕著な発生異常は認められておらず、S1PR間で機能的に補完している可能性も考えられた。本研究では、S1PRに対する多重遺伝子破壊系統を作成し、S1Pシグナルの形態形成における役割を明らかにする。
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