研究実績の概要 |
脂質メディエーターであるスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)は、生体内で生理活性脂質として様々な形態形成に寄与すると考えられているが、脊椎動物における生理機能は不明な点が多い。脊椎動物のS1PRは、S1PR1~S1PR5(ゼブラフィッシュの場合、S1PR1, S1PR2 S1PR3a, S1PR3b, S1PR4, S1PR5a, S1PR5bの7種類)から構成されており、S1PRを介するS1Pシグナルの全貌は明らかになっていない。本研究では、ゲノム編集技術を用い網羅的なS1PR機能欠損ゼブラフィッシュ変異体の表現型解析からS1Pの新規機能を明らかにすることを目的としている。S1PR2を除く全てのS1PR単独変異体は顕著な形態形成異常を示さず世代交代が可能であることを見出した。驚いたことに、S1PR多重変異体の解析を進めた結果、6種類のS1PRが破壊された6S1PR多重変異体(S1PR2は野生型)は成魚まで生育が可能であった。一方、全てのS1PRが破壊された7S1PR多重変異体は1日胚において特徴的な形態形成異常を示す胚性致死の表現型を示した。7S1PR多重変異体が示す二叉心臓の表現型はS1PR2変異体と類似しているが、7S1PR多重変異体は尾部の低形成とともに造血細胞や血管細胞の発生異常が認められた。赤血球の前駆細胞は体幹の動脈と静脈の間で分化し、動脈に侵入しながら循環系に移出する。7S1PR多重変異体は血管の管腔形成に異常が認められ、赤血球前駆細胞の形成異常が認められた。これらの結果は、S1PRを介するS1Pシグナルが心臓前駆細胞の移動の制御だけでなく、管腔形成を含む血管発生や赤血球分化を含む造血発生に必須のシグナル伝達系であることを示している。
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