研究課題/領域番号 |
17H03682
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐々木 洋 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (10211939)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 細胞競合 / Hippoシグナル / エピブラスト / 品質管理機構 / 細胞間コミュニケーション / 細胞分化 / 着床前胚 |
研究実績の概要 |
発生中の胚内の個々の細胞の挙動や状態にはばらつきがあるが発生は常に正確に体を作る。本研究では、正確な発生を可能にする仕組みの明らかにするために、Hippoシグナルによる隣接細胞間のコミュニケーションについて解析した。Hippo経路の下流で働く転写因子TEADに注目し、2細胞期胚へのゲノム編集によりTEADの転写活性(TEAD活性)が低いTead1遺伝子欠損細胞をモザイク状に持つモザイク胚を作成すると、着床後の初期胚においてTead1欠損細胞が多能性細胞のエピブラストから特異的に排除された。胚全体でTead1を欠損した胚はエピブラストを持つことから、Tead1欠損細胞が排除されたのは、正常細胞との間の細胞競合で敗者となったためと考えられた。エピブラストは、最初、着床前の後期胚盤胞に作られる。エピブラストは初期胚盤胞の内部細胞隗から作られるが、モザイク胚ではその形成過程で細胞競合が起こり、Tead1欠損細胞が次第に細胞死により排除された。エピブラスト形成過程ではTEADが次第に活性化することが多能性因子の強い発現誘導に必要なことも見出した。正常な胚のエピブラスト形成過程でも、中期胚盤胞においてはTEAD活性や多能性因子の発現にはばらつきがあり、TEAD活性・多能性因子の発現の低い細胞を排除する細胞死が見られた。これらの結果から、エピブラスト形成過程では個々の細胞の分化状態にはばらつきがあり、細胞競合が多能性因子の発現の低い低品質な細胞を排除する品質管理機構として働くことで、高品質な細胞からなるエピブラストを作ることが示唆された。また、細胞死を抑制した胚ではエピブラストの組織構築も乱れたことから、細胞競合は正しい組織構築にも必要であることが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度、マウス初期胚におけるTEAD活性の差による細胞競合は着床前胚で起きていることを見出し、本年度は、着床前胚のTEAD活性と細胞分化の関係、細胞分化における細胞競合の意義を解析し、TEAD活性による細胞競合機構の解析を行う予定であった。しかし、研究途中で、細胞競合が組織構築にも重要な役割を果たしているという、予想外の知見を得たが、その重要性のため、研究機関を延長し、細胞競合の組織構築に果たす役割の研究も進めた。その結果、細胞競合機構の研究の開始が遅れ、解析は進めてきたが、まだその機構の解明には至っていない。
|
今後の研究の推進方策 |
細胞競合機構の研究を進めるとともに、これまでの研究成果をまとめ、学会発表を行うとともに、国際誌へ論文として投稿する。
|