研究課題
中枢神経系の発生においては、モルフォゲンによる位置情報と細胞増殖を制御するシグナル経路は共役して分化が進展する。特に、神経前駆細胞のうち、増殖は各領域で異なり、その結果として各領域の大きさや細胞数が決定されていく。中枢神経器官において、底板領域はそれ自体がモルフォゲンを産出し、器官全体の形態や神経細胞のガイダンスなどに寄与する部分であり、また増殖効率が他の領域に比べて著しく低いという特徴を持つ。研究代表者らは、モルフォゲンの1つであるソニック・ヘッジホッグ(Sonic Hedgehog: Shh)が底板領域細胞の運命決定に必須の役割を果たすことを利用して、Shhが誘導する底板領域特異的に発現する転写因子FoxA2の機能に着目した。FoxA2の強制発現により、細胞増殖が抑制されることが明らかになり、FoxA2が底板領域の増殖効率を決定することが明らかになった。さらに、網羅的発現解析からFoxA2の下流でmTORシグナルの負の制御因子RNF152が発現することが明らかになった。実際にRNF152を強制発現すると細胞増殖がブロックされ、さらにRNF152の機能阻害により、底板領域で細胞の異常増殖が見られた。これらの結果から、Shhシグナルの下流で発現する転写因子FoxA2がmTORシグナルを制御することにより、底板領域特異的な細胞増殖の効率が決定されることが明らかになった。この結果は、モルフォゲンによる前駆細胞の運命決定と増殖効率が相関をもつことを示唆している。このほか、神経幹細胞に発現する膜タンパク質Prominin-1がカルシウム作動性の塩化物イオンチャネルであることを証明した。
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