研究課題
多くの動物において、生殖細胞は胚発生の早い時期に確立され、体細胞とは異なる独自の制御機構により維持される。生殖細胞の形成と分化は、しばしば生殖質に集積する母性因子の作用により制御される。ショウジョウバエにおいて、生殖質の形成や分化に異常を示す母性効果突然変異は数多く単離されているが、生殖細胞の形成・分化を直接指揮する因子はごく少数しか同定されていない。そのような新規因子を同定することを目標に、卵形成過程中後期(stage ~4以降)で発現するGAL4系統を用いてRNAi経路を誘導して、胚発生における極細胞の形成や生殖巣への移動に異常を示す系統のスクリーニングを進めた。2,267系統について表現型解析を行った結果、生殖細胞の形成や生殖巣への移動過程に異常を示すヘアピンRNA(shRNA)系統を170種同定した。これら一次スクリーニングで得られた候補遺伝子の内、特異的な表現型が出る割合が高い67系統について二次スクリーニングにより表現型を詳細に検討した。その結果、一次スクリーニングとほぼ同様の表現型が出る系統が37(30遺伝子)得られた。これら候補遺伝子の中には、細胞骨格制御、翻訳関連因子、クロマチン制御、mTOR系統、Rasシグナル経路の因子などが複数含まれ機能的にグループ化できた。現在、スクリーニングで同定した候補遺伝子の中から、shRNAによるノックダウンの表現型の浸透度が高い候補について、CRISPR-Cas9技術を用いてノックアウト系統の作成を進めている。
2: おおむね順調に進展している
スクリーニングで同定することのできた候補遺伝子の中から、shRNAによるノックダウンの表現型の浸透度が高い候補について、CRISPR-Cas9技術を用いてノックアウト系統の作成を進めている。幾つかの遺伝子に関しては、ノックアウト系統では生殖細胞の挙動が正常であることから、shRNAのオフターゲット効果による影響と考えられたが、別の一群については、ノックアウト系統でも生殖細胞の挙動が異常となるものが得られている。また、転写因子をコードする遺伝子について、既存のトランスポゾン挿入系統を解析した結果、卵形成過程でVasa, Tudorなど生殖質因子の発現の低下が観察された。この転写因子が卵形成過程における生殖質因子の転写に関わっている可能性が期待される。興味深いことに、本遺伝子座にGFPを読み枠を合わせてノックインした系統を作成し、タンパク質産物の挙動を解析したところ、胚発生過程で生殖細胞(極細胞)にシグナルが観察された。胚発生過程における生殖質因子の胚性発現にも関わっている可能性が期待される。このように、一つ一つの候補遺伝子についての解析が少しずつではあるが進んでおり、研究は概ね順調に進展していると考えられる。
今後も、一つ一つの候補遺伝子についてノックアウト系統の作成と表現型解析を進めていく予定である。ホモ個体由来の、あるいは生殖系列クローンを作製することにより、機能を欠失した胚が得られた場合には、生殖細胞の振る舞い異常が標的遺伝子の機能欠失によるものであるかを明確にすることが可能である。生殖系列クローンが作製できない場合には、複数のRNAi系統を入手・作製する。このような手法から、生殖細胞の形成・分化に関わる新規因子として有力な候補となった遺伝子については、その分子機能解析を強力に推し進める。具体的には、突然変異あるいはノックダウン系統における既知の生殖質因子の挙動を解析することにより、生殖細胞形成分化のネットワーク上の位置を明確にする。また、GFPタグなどをノックインし、タンパク質産物の細胞内における分布ターンを解析する。さらに、質量分析により相互作用因子を同定し、その機能解析に展開させる。このような解析を進めることにより、得られた因子の分子機能を明確にしていく。
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EMBO Report
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