研究課題/領域番号 |
17H03688
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
近藤 寿人 京都産業大学, 総合生命科学部, 教授 (70127083)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 細胞分化 / エピブラスト / 原腸陥入 / 幹細胞 / 転写因子 |
研究実績の概要 |
胚のエピブラストの領域化が、多様な体細胞系列が発生する最初のステップである。次の4つの課題を中心として、胚の領域化とそれに依存した体細胞前駆体の発生の制御について研究した。 【課題1】エピブラストに領域性を与える制御機構。この研究課題の一環として、頭部領域の決定に主要な役割を果たすOTX2の作用について研究した。ニワトリ胚全体でOTX2を発現すると、神経系や沿軸中胚葉の後部伸長が抑制された。これらの組織の後部伸長の前段階として、エピブラスト細胞の後部に向かっての移動がおきるが、OTX2はその後部移動を阻害している(それによって頭部組織の前駆体を確保している)可能性が示された。エピブラストから神経系前駆体が生み出された時点ですでに領域性を獲得する機構についても研究を進めた。 【課題2】転写因子SOX2の発現制御とSOX2の作用。Sox2遺伝子を、神経系原基全体で発現させる機能を持つD1エンハンサーの制御について研究した。その結果、D1エンハンサーの活性化には、SOX2とZIC2の共同的な作用が関与することが予想された。これは課題3にも関係する重要な研究成果である。 【課題3】ZIC 転写因子群の、エピブラストの領域化ならびに体細胞系列決定への関与。マウス胚を用いた発生ステージを限定したZIC1/2/3の3因子のノックアウト、ニワトリ胚における遺伝子操作を用いて研究を進めたが、課題4との関わりもあり、エピブラスト幹細胞をこの研究課題にも活用するのが良いと判断した。 【課題4】Nodeと原条がエピブラストの中で形成される機構。前年度の研究を発展させて、エピブラスト幹細胞の集塊を、Wntシグナルを阻害した条件下でMatrigelのなかで培養すると、Nodeや中内胚葉の性質を持った細胞群が出現することを確認した。またその条件下では、細胞集団のなかでのZIC3の発現が低下することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ニワトリ胚の操作による神経系形成の研究と、エピブラスト幹細胞由来の神経幹細胞株を用いた研究結果を統合すると、次のような結論が得られつつある。エピブラストから直接に生ずる神経系の前駆体が、最初から領域性を伴っているのは、エピブラストの中にあらかじめ生じているWntシグナルの強度に依存した領域性の反映であろう。 また、マウス胚の遺伝子操作、ニワトリ胚の遺伝子操作、エピブラスト幹細胞の培養遺伝子の操作などの異なったアプローチをもとにした研究を統合すると、ZIC転写因子が「神経系か非神経系か」という細胞運命の制御に大きく関わっていること、Wntシグナルが低い条件下で、さらにZIC因子が下がることがNodeや原腸陥入に依存した中内胚葉形成の条件となっていることなどが強く示唆されている。 このように、多様な実験的なアプローチを統合することによって、エピブラスト段階の領域化と、次の段階の体細胞前駆体の発生の制御の各々について、最も基盤となる機構が明らかになろうとしている。本研究の後半の2年間は、かなり的を絞って研究を推進することができる状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
これからは、まず、エピブラスト幹細胞や、それから派生した体細胞の前駆体を活用して、遺伝子操作と培養操作(細胞間相互作用とシグナルの操作)等を組み合わせた研究をすすめる。そして、遺伝子発現プロファイル等の詳細な解析を行う。そのうえで、それらの解析からもたらされる結論(モデル)を、マウス胚やニワトリ胚を用いて検証してゆく方針である。
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