研究課題
胚の前後軸と子宮の軸との関連が報告されているが、いつからその関係が見られるか、なぜその関係が見られるようになるかは、未解明である。マウス胚の前後軸形成に、子宮および胚体外組織が能動的な役割を果たしている可能性を問う。この為に、子宮と胚軸との関係をE5.5のマウス胚で確認し、胚盤胞の形態的な偏りがその後の胚の軸にどう反映されるか、子宮および胚体外組織で将来の胚軸と関連して発現する分子が存在するかを明らかにする。発生研究では胚の側が注目されがちであるが、ほ乳類発生を考える際に子宮や胚体外組織の関与を軽視することはできない。胚体外組織や子宮が栄養供給にとどまらず、胚との相互作用により胚軸形成においても重要な意味を持ち得る可能性を問う。研究を進めるために、まず子宮軸と胚軸の関係について組織学的な解析を行う、その後に、子宮と胚とを関連付ける分子の検索を行う。平成30年度までに、組織学的な解析の基本的な技術は開発が終了し、分子の検索についてはモノクローナル抗体を用いた発現スクリーニングを行った。
3: やや遅れている
子宮軸と胚軸の関係の確認 まず形態的に胚の前後が明確であるE7.5日目の子宮を用いた確認を行った。固定した子宮をパラフィン包埋し、連続切片を作製し、HEで染色した後に立体再構築した。子宮の3軸に対して、胚軸がどちらを向いているかを定量的に解析した結果、子宮の軸と胚軸は優位に関連があることが確認できた。E5.5 ではAVE、E6.5では原腸陥入部のマーカーを用いて胚の前後軸を可視化することをめざした。それぞれのマーカー遺伝子の発現制御領域の元でGFPを発現するマウスを導入した。これと平行して、胚の核でGFPが局在するノックインマウスを用い、固定したパラフィン切片を連続切片にした後に、抗GFP抗体を用いて染色し、そこから更に立体再構築する手法については確立した。胚体外組織および子宮で胚軸に関連して発現する分子の同定 マウス胚盤胞を免疫し初期胚で発現する分子を認識する約700種類のモノクローナル抗体を作製した。これらの抗体を用いて切片を染色し、E5.5およびE6.5において胚体外組織や子宮で局所的に発現する分子を検索した。一部の抗体で子宮での発現が見られた。明確に胚軸に関連して偏って発現する分子は見いだせなかった。胚盤胞での偏りと胚の前後軸との細胞系譜解析 胚盤胞の特定の領域の細胞を標識する為に、光遺伝学的手法とCreリコンビナーゼを組み合わせた非可逆的長期間の標識方法の導入を目指している。活性を光誘導できるCreリコンビナーゼを発現するトランスジェニックマウスの作成を進めた。複数の系統が得られており、Rosa26遺伝子座に挿入されたfloxのヒストンH2BEGFPのレポーターマウス(R26R-H2BEGFP )を用いて光による組換え活性の検討を開始した。
これまでの研究を継続し、上記の各項目について更に研究を進める。子宮軸と胚軸の関係の確認に関しては、導入したトランスジェニックマウスを用いて、切片の作成、抗体染色、3次元再構築を進める。GFPの局在から胚軸を同定し、子宮の軸との関係を各発生段階で確認する。胚体外組織および子宮で胚軸に関連して発現する分子の同定については、胚側の情報についても更に早い発生段階において切片を染色することで、候補となり得るモノクローナル抗体がないか検索する。これと平行し、子宮の領域において細胞間で発現が異なる分子群がないか検索する。胚盤胞での偏りと胚の前後軸との細胞系譜解析については、胚盤胞に対するモノクローナル抗体のうち、胚盤胞内で偏って発現する分子がないか再度染色を行い検討する。光によって 組換えを誘導するトランスジェニックマウスについては、組換え活性を指標に系統の絞り込みを進める。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Dev Biol.
巻: 429 ページ: 20-30
10.1016/j.ydbio.2017.07.004.
http://www.nibb.ac.jp/embryo/