研究課題/領域番号 |
17H03693
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
寺島 一郎 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (40211388)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 色素体機能 / 光合成 / シンクソース関係 / 老化促進 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、高CO2環境で葉の光合成系はどう変化するのかを明らかにすることである。具体的には次の2つの研究を行う。1)葉の光合成系の糖応答を解析する。操作実験系を用いて葉の糖含量を操作し、ヘキソキナーゼ系、トレハロース6-リン酸とSnRK1との相互作用系などのはたらきに注目しつつ、シンク葉期・ソース葉期・老化期ステージ間の葉の応答を比較・解析する。2)個葉光合成系の能力決定やその可塑的変化に、その葉と、その葉以外の環境がどう影響するのか。植物体の部分環境制御システムを用いた操作実験システミック現象を整理し、オーミクス解析を介してその分子生理学的基盤を探る。 糖応答は種々の植物について調べられてきたが、応答の強さは植物種や品種によって大きく異なる。われわれが開発した葉大根とハツカダイコンの接木系では糖がかなり蓄積しても光合成の強いダウンレギュレーションは見られなかった。また、ダイズ、アズキ、インゲンを比較したところ、インゲンがもっとも糖蓄積による光合成のダウンレギュレーションの度合いが大きかった。このような糖応答の大きな違いの原因を追求すれば、糖応答の仕組みも明らかになるはずである。ホウレンソウ、シロイヌナズナ以外に、これらを材料とした研究を推進することにした。操作実験系の開発もやや遅れながらも進行している。2年目からは、操作実験系を用いた研究を進めることが可能である。操作実験系としては、葉柄低温ガードリングによって篩部の機能を低下させる系、部分環境制御システムなどを構築している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光合成産物の供給源であるソース葉と、光合成産物を必要とする(需要のある)のシンクの需要・供給バランス(シンク・ソースバランス)は極めて重要であり、高CO2濃度環境下では、これらのバランスが大きく異なることが予想される。 シンクソースバランスを人為的に制御するために開発した胚軸(シンク)の小さい葉大根と大きいハツカダイコンの接木実験系を用いて実験を行ってきたが、これらの品種は、葉に糖が蓄積した際にも、光合成はそれほど強いダウンレギュレーションは受けないことが明らかになった。また、マメ科植物3種の比較により、インゲンでは、葉に蓄積した糖による光合成系のダウンレギュレーションが顕著におこるが、ダイズやアズキではそれほど顕著ではないことを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
1)シンク葉期・ソース葉期・老化期の葉の光合成系の糖応答 切り葉への糖添加実験、個体を用いた低温ガードリング実験および糖添加実験を、シロイヌナズナ、ホウレンソウ、インゲン、ダイズ、ハツカダイコンで行う。光合成速度の測定や、光合成系タンパク質量、色素量、 C/N元素分析に加え、オーミクスデータを精査し、これまでに糖応答に重要であると指摘されてきた経路の関与、経路間の相互作用を定量的に評価する。とくに、トレハロース6リン酸とSnRK1との相互作用に注目し、葉の各発生段階で光合成系の調節に果す役割を明らかにする。 2)葉の光合成系の高CO2応答のシステミック制御 部分環境制御システムによってインゲンの下位葉の環境を自由に操作し、下位葉の光合成能力は、CO2濃度の影響を受け、低CO2濃度では高く、高CO2濃度では低下すること、また、下位葉の葉緑体が低/高CO2濃度下で還元/酸化状態にあるほど、葉緑体は陽/陰葉緑体の性質(表ではsun/shadeと表現)をもつこと、上位葉の葉緑体の性質は下位葉の性質に類似することを見出している(Araya et al. 2008)。この分子メカニズムをRNAseqなどにより明らかにする。 高CO2環境では、葉に糖が蓄積しがちであると考えられ、これに敏感に応答して光合成系がダウンレギュレーションを受けるようでは、植物は立ちゆかない。また、晴れた日が続いて糖が葉に蓄積するたびにダウンレギュレーションが起こるとは考えにくい。野外の環境を想定した実験条件を設定して、検証したい。
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