研究課題
環境変化やストレスに対して適応するため、植物細胞は多様なストレス感受システムと細胞内シグナル伝達経路を進化させてきた。本研究では、浸透圧ストレスで瞬時に活性化されて微小管細胞骨格を一過的に消失させる鍵酵素PHS1の活性制御機構とその生理的意義を明らかにする。PHS1 は中央部にαチューブリンをリン酸化するキナーゼ領域を持ち、C 末端にMitogen-activated protein kinase (MPK)を特異的に脱リン酸化させ不活性化させると報告されているMPK フォスファターゼ領域を併せ持つ。本年度は、大腸菌で発現、精製した組換えタンパク質を用いて、PHS1の自己リン酸化部位の同定を行った。以前に全長のシロイヌナズナPHS1を用いた同様の実験ではリン酸化されたアミノ酸残基が検出されなかったため、今回はMPK フォスファターゼ領域を欠失したシロイヌナズナとゼニゴケのPHS1活性化型変異体をATP存在下で反応させた。リン酸化ペプチドの回収効率を上げるため、反応後のPHS1たんぱく質をトリプシンとLysCの2種のプロテアーゼで別個に部分分解した。その結果、複数のPHS1アミノ酸残基がリン酸化されることが判明した。その中には、推定活性化ループ近傍のセリン、スレオニン残基も含まれていたため、それらのアミノ酸残基を全てアラニンに置換した変異型PHS1を作製した。この変異型PHS1が精製チューブリンをリン酸化するかどうかを調べたところ、非変異型PHS1とほぼ同等のリン酸化活性をもつことが判明した。すなわち、粘菌のアクチン・フラグミンキナーゼ(PHS1と相同性をもつ)の類推から推定された活性化ループのリン酸化はPHS1のリン酸化酵素の活性化には必須でないことが明らかとなった。
3: やや遅れている
当初は一般のキナーゼの活性化に重要だと考えられている推定活性化ループの存在するセリン又はスレオニン残基が自己リン酸化されることによりPHS1が活性化される制御機構を想定し、実験計画を構築した。しかし、この予想に反して推定活性化ループのセリン・スレオニン残基のリン酸化はPHS1の活性化に必須ではないことが判明した。そのため、実験計画を再度練り直す必要が生じた。
本年度の実験結果を踏まえ、実験計画を一部修正した。まず、研究の後半で主に行う計画であったMPKの同定実験を前倒しして行い、同定したMPKを用いたPHS1のリン酸化について実験を行う。さらに、推定活性化ループのセリンやスレオニン残基以外のアミノ酸残基にも着目し、それらアミノ酸残基の置換変異型PHS1を作製して、そのチューブリン・リン酸化活性を測定することのより、活性化に重要なアミノ酸残基を明らかにしてゆく。
すべて 2017 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
BMC Plant Biol.
巻: 17 ページ: 33
10.1186/s12870-017-0987-5
Scientific Reports
巻: 7 ページ: 7826
10.1038/s41598-017-08453-5
Physiol. Plant.
巻: 162 ページ: 135-144
10.1111/ppl.12640
https://bsw3.naist.jp/hashimoto/