研究課題
本研究では、シアノバクテリアの細胞内共生により生じた葉緑体が、前駆体であるプロプラスチドから葉緑体に分化し維持されるために必須なプロセッシブ分解の調節機構を明らかにするとともに、分解産物であるペプチド・ヌクレオチドの葉緑体外輸送など、その生理機能についても着目し、葉緑体のホメオスタシス・機能転換と生体高分子分解の関係を統合的に理解する。以下の3つの項目について研究を進めた。(1)プロセッシブなタンパク質分解酵素FtsHの制御機構:FtsHはチラコイド膜の主要プロセッシブタンパク質分解酵素である。H29年度はFtsHがリン酸化されていることをPhos-tagにより検出し、リン酸化が光条件に影響されないこと、STN7キナーゼに依存しないことを明らかにした。加えて、質量分析結果からリン酸化部位のセリン残基を予測するとともに、それらにアミノ酸置換を導入したFtsH2を発現する植物の作製を進めた。(2)プロセッシブな核酸分解酵素DPD1の制御機構:点変異(A236V)を導入したDPD1タンパク質を大腸菌発現系により調製し、ヌクレアーゼ活性が低下していることをin vitro nuclease assayにより明らかにした。更に、この変異を持つDPD1遺伝子をエストラジオール誘導系ベクター(pER8)に導入し、植物(シロイヌナズナ)に形質転換した。現在までに、目的の遺伝子コンストラクトを保持した10系統の植物体を得ている。(3)分解産物の葉緑体排出の解析:H29年度はタンパク質分解により生じた短鎖ペプチドの葉緑体排出の可能性について解析を進めた。BタイプのABCトランスポーターでセンチュウのペプチドトランスポーターTAP1と類似性のあるホモログに着目した。TAP1ホモログが内包膜にホモダイマーとして局在し、ヌクレオチド結合領域をストロマ側に配向することから排出活性を示す可能性が支持された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、葉緑体でのプロセッシブ分解を担う酵素として、FtsHプロテアーゼ、DPD1ヌクレアーゼに着目しているが、それぞれの研究で当初の計画通りに進捗している。分解産物の葉緑体排出については、TAP1ホモログに着目した解析も計画通りに進んでいる。
FtsHのリン酸化制御によるタンパク質分解の解析では、推定リン酸化部位にアミノ酸置換を導入した形質転換植物の育成が進んでいるので、H30はこれらの世代を促進させてさらなるリン酸化とFtsH安定性、あるいは光化学系II修復作用との関連性を調べる。DPD1による核酸分解については、H29までに得られた形質転換植物でエストラジオールによりDPD1を発現させ、DPD1に対する特異抗体を用いた共免疫沈降法によりDPD1と生体内で相互作用している因子の単離と同定を試みる。分海産物排出機構の研究については、TAP1ホモログについてH30も引き続き解析を進める。特にTAP1のペプチド輸送活性について、プロテオリポソームを用いた研究について考察する。
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Plant Physiology
巻: 175 ページ: 1624~1633
10.1104/pp.17.01346