研究課題
1.ペプチドグリカン合成系の詳細な系統解析:細菌のペプチドグリカン合成系を構成する酵素群とそれに対応する藻類・植物の酵素群の推定アミノ酸配列を,独自の比較ゲノムデータベースGclustの相同クラスタをもとにして取得し,網羅的な系統解析を行った。その結果,調べた10種類の酵素のうち,8種類については,植物・藻類の酵素は,シアノバクテリア起源ではなく,また,残る2種類の酵素も,一次共生以後にシアノバクテリアから導入されたことがわかった。2.膜脂質合成系遺伝子の同定と詳細な系統解析:葉緑体膜を構成する脂質をつくるためのアシルトランスフェラーゼとPAホスファターゼの起源について,1と同様の手法で系統解析を行った。その結果,植物・藻類の葉緑体に存在すると考えられる1段階目のアシルトランスフェラーゼ(ATS1)は,基本的には植物・藻類にだけ存在し,原核生物で唯一ホモログが存在するクラミジア属のものは,後から導入されたと考えられた。二段階目のアシルトランスフェラーゼ(ATS2)は,植物・藻類のものがシアノバクテリア起源ではなく,真核生物固有のものだが,緑色細菌にもホモログが存在するものと推定された。PAホスファターゼは,真核・原核で完全に系統が分かれ,植物・藻類の葉緑体のものは,真核生物起源と考えられた。これらの結果から,従来,葉緑体の脂質合成系は原核経路と呼ばれていたが,この呼称は不適切であることが判明した。3.脂肪顆粒の局在の解析:これまでクラミドモナスでは,特定の条件で蓄積する脂質顆粒が細胞質だけでなく,葉緑体にも存在すると報告されてきたが,共焦点蛍光顕微鏡による立体構築と電子顕微鏡による詳細な観察の結果,葉緑体に脂質顆粒が存在するという確たる証拠は存在しないことを示した。4.Mesostigma virideのゲノム解析を行い,いくつかのペプチドグリカン合成系の酵素を同定した。
1: 当初の計画以上に進展している
当初予定していたペプチドグリカン合成系と脂質合成系の系統解析はほぼ完了し,すでに論文を2編発表した。また,細胞内共生説に関する問題点について,これらの研究成果も含めて,著書を6月に刊行するめどとなっている。ゲノム解析も順調に進み,従来オルガネラしか報告のないMesostigmaのドラフトゲノム配列を完成する準備をしている。これらのことから,当初予定した研究は順調に進んでおり,さらに申請段階では2年目以降として計画したポーリネラのクロマトフォアにおける脂質合成についても,ある程度の結果が得られている。こうした状況から,上のように自己評価した。
今年度はMesostigumaのゲノム解析を完成することと,Mesostigmaの細胞やポーリネラのシアネラを用いた脂質合成の研究を進める。また,葉緑体の脂質合成系すべての酵素の系統解析を完成し,葉緑体の起源との関係で議論する論文をまとめていく。
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http://gclust.c.u-tokyo.ac.jp/