研究課題
1.シアノバクテリアの油脂合成系:シアノバクテリアに油脂(トリアシルグリセロール:TAG)が存在するかの報告が散見されるが,実際に物質を厳密に同定した報告はない。特に開発した特別な二次元薄層クロマトグラフィーを用いて,Synechocystis sp. PCC 6803からTAGと同等の移動度を示す脂質を精製した。質量分析(TOF-MS, GC/MS)や核磁気共鳴(1H, 13C)などの測定を行った結果,この物質はTAGではないことがはっきりした。Nostoc punctiformeからも同様の脂質が得られ,TAGではなかった。したがって,シアノバクテリアにTAGは存在せず,TAG合成も行われていないと考えられる。この点で,シアノバクテリアと葉緑体は異なり,葉緑体にわずかに含まれるTAGは真核起源と考えられる。2.伝統的にシアネラをもつとみなされてきたシアノフォラとポーリネラと,陸上植物の起源系統の最も原始的な藻類とされるメソスティグマについて,脂質成分の同定を行い,また,ゲノム解析を行って,脂質合成系の局在について検討した。ポーリネラのクロマトフォアゲノムには,シアノバクテリア由来の脂肪酸・脂質合成系が完全に保存されていたが,ゲノム情報からは,細胞質に動物型と菌類型の合わせて3個の脂肪酸合成酵素が存在することが推定された。ポーリネラでは,真核コンパートメントとクロマトフォアが独立して脂質を合成していることが考えられた。ラベル実験を行うと,光に依存した脂肪酸合成と依存しない合成が見られ,それぞれ産物も異なっていた。これも二種の合成系の共存を示唆している。シアノフォラでも細胞質に菌類型脂肪酸合成酵素の存在が示唆されたが,メソスティグマは,既知の緑藻・緑色植物と特に変わるところはなかった。3.当初予定したDNA複製関係の酵素についての解析は次年度に持ち越しになった。
2: おおむね順調に進展している
実験と系統解析の両面で,脂質関連の分析を十分に進めることができた。TAG類似物質の構造はまだ完全には決まっていないが,TAGでないことだけは明確になった。ポーリネラとシアノフォラの脂質分析と脂質合成の実験は,これまで全く行われていなかったもので,新たな知見を数多く得ることができ,当初期待した以上の成果を挙げることができた。DNA複製系の解析については,その基礎となるゲノムの基本情報の準備まではできたが,実際の解析についてはもう少し時間が必要と判断された。以上の理由で,ほぼ当初予定した程度の研究成果が得られたと判断している。
平成30f年度末をもって現職を退職するが,平成31年度も特任研究員として本基盤研究(B)の研究を継続できることになっている。そのため,持ち越しとなったDNA複製関連の酵素についての詳しい検討を進める。さらに,平成30年度に行った実験の結果を論文として発表していく。また,平成30年に発表した著書『細胞内共生説の謎』の英語版を出版すべく,執筆作業を進めていく。こうして,学会発表と論文発表を継続して進める。
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