当初計画した通り,以下の研究を行い,研究結果を論文と単行本の形で出版した。 1.「シアネラ含有藻類の脂質分析と脂質合成系の解析」に関して,<i>Paulinella chromatophora</i>のゲノム情報と<i>P. micropora</i>ラベル実験に基づき,シアノバクテリアと同じ脂質合成系がクロマトフォアに備わっていることを証明した。さらに,<i>P. micropora</i>の脂質分析を行い,特に,DGCCと呼ばれるホスファチジルコリン(PC)のリン酸部分がグリオキシル酸に代わった脂質の存在を明らかにした。 2.ラベル実験の結果,クロマトフォアにおける光合成によって固定された有機物が速やかに細胞質に移動して,PCやトリアシルグリセロールの合成に使われることを明らかにした。この事実は,クロマトフォアはシアノバクテリアとそっくりのものであるものの,独立した存在ではなく,細胞全体の代謝系に組み込まれていることを示している。 3.以前にはシアネラとして,シアノバクテリアがそのまま共生していると考えられた<i>Cyanophora paradoxa</i>と,陸上植物の一番祖先に近いとされる緑藻<i>Mesostigma viride</i>についても,詳細な脂質分析を行い,前者については代謝解析も行った。その結果,これらは普通の葉緑体と同等と考えられることを再確認した。 4.Gclust比較ゲノムデータに基づき,植物と藻類の葉緑体の脂質合成系の酵素の詳細な系統解析を行い,シアノバクテリア由来のものがきわめて少ないことを明らかにした。この系統解析と上記の実験の結果,葉緑体の起源を単純なシアノバクテリアの細胞内共生とみなすのは短絡的であり,多数の遺伝子移動を伴う複雑な過程と考えるべきであることを明らかにした。
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