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2019 年度 実績報告書

ヘビ類における新奇な防御器官の進化:頸腺の発生学的起源と餌毒利用の推移過程の解明

研究課題

研究課題/領域番号 17H03719
研究機関京都大学

研究代表者

森 哲  京都大学, 理学研究科, 准教授 (80271005)

研究分担者 森 直樹  京都大学, 農学研究科, 教授 (30293913)
土岐田 昌和  東邦大学, 理学部, 講師 (80422921)
研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2021-03-31
キーワード防御システム / 餌毒利用 / ヘビ / 形態発生
研究実績の概要

中国へは5月から6月にかけてと9月に訪問し、イツウロコヤマカガシとミゾクビヤマカガシを捕獲して、行動実験および頸腺毒成分の化学分析を行なった。イツウロコヤマカガシがホタルの識別の際の手がかりとしている匂い物質の特定を行うために、ホタルを極性の異なる溶媒に入れて体表物質を抽出し、それらに対するヘビの嗜好性を比較した。現在のところ物質の特定にまでは至っていないが、候補物質を限定しつつある。また、ミミズ食である中国産ヤマカガシ3種の頸腺成分を比較したところ、ホタル毒への依存度は種によって異なることが示された。
頸腺の発生学的起源の解明に関しては、ステージ32のヤマカガシ胚、ならびに同ステージのシマヘビ胚およびマムシ胚の頸部組織で発現する遺伝子をRNA-seq法を用いて網羅的に比較することにより、ヤマカガシ胚の頸部のみで強く発現する遺伝子を40個ほど特定してきた。さらに、そのうち頸腺の形成に関与していると予想されたCADM1、NGFR、PDGFRA、AZIN2の4つについて、より詳細なmRNAの発現解析を行なった。現在mRNAの局在を確認するための分析を継続中である。
2月から3月にかけてはインドネシアに渡航し、京都大学理学研究科とインドネシアボゴール動物学博物館との共同研究契約の締結を完了した。また、同博物館標本を分析し、Macropisthodon属2種およびRhabdophis chrysargoidesの頸部形態を詳細に調べ、これまでに知られているのとは異なる様相の頸腺構造を持つことを発見した。一方、日本産ヤマカガシの頸腺毒成分についての地理的変異の分析を行った結果、その変異パターンは頸腺毒の由来であるヒキガエルの皮膚毒の変異パターンにおおむね類似していることが示唆された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

頸腺の発生学的起源の解明においては、これまでの3年間において、ステージ32のヤマカガシ胚、ならびに同ステージのシマヘビ胚およびマムシ胚の頸部組織で発現する遺伝子をRNA-seq法を用いて網羅的に比較することにより、ヤマカガシ胚の頸部のみで強く発現する遺伝子を40個ほど特定し、そのうち頸腺の形成に関与していると予想されたCADM1、NGFR、PDGFRA、AZIN2の4つについて、より詳細なmRNAの発現解析を行なった。しかしながら、現在のところ、mRNAの局在を確認することはまだできていない。これは、本分析を担当している分担者の研究室に実験を実働する学生がいなくなり、実験の進行が遅滞気味であることが主な原因である。

今後の研究の推進方策

これまでの研究により、イツウロコヤマカガシの頸腺毒はマドボタル由来であることが検証できた。一方、同じくミミズ食である近縁種のミゾクビヤマカガシやレオナルドヤマカガシの頸腺毒成分を詳細に分析したところ、ヒキガエル由来の毒を持つ個体群や、ヒキガエルとホタルの両方の毒を利用している個体群が存在する可能性が見えてきた。そこで今後は、これら3種の地域個体群を対象にして頸腺毒成分や食性を詳細に調べ、ホタル毒への依存度を比較する。これにより、ヒキガエル毒利用からホタル毒利用への推移過程がどのようにして進行したかを推察する。また、これらの種の頭部形態をマイクロCTスキャンを用いて分析することにより、捕食に関わる骨要素や歯の形状を比較し、食性の変化に伴う適応的な形態進化の様相を明らかにする。
頸腺の発生学的分に関しては、頸腺の形成に関与していると予想されたCADM1、NGFR、PDGFRA、AZIN2の4つについて、引き続き発現解析の条件検討を進め、ヘビ胚頸部におけるこれらの遺伝子の発現パターンを高い精度で記述することをめざす。
頸腺の多様化に関しては、これまでの研究において、通常の頸腺の形態とは極めて異質な様相を呈する頸腺らしき組織を持つことを確認したインドネシア産3種に重点をおき、頸腺の組織切片作成による詳細な形態観察、頸腺毒の化学成分分析、毒液の排出機構の解明、食性調査を実施する。また、同様に異質な構造を持つムルーヤマカガシの頸腺の詳細な形態観察を、京都大学に既存の標本を用いて行う。一方、日本産ヤマカガシの頸腺成分の地理的変異パターンをさらに詳細に分析し、ヒキガエル毒の変異との関係やヤマカガシ独自の要因の関与を評価する。

  • 研究成果

    (14件)

すべて 2020 2019 その他

すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)

  • [国際共同研究] 成都生物研究所/楽山師範大学(中国)

    • 国名
      中国
    • 外国機関名
      成都生物研究所/楽山師範大学
  • [国際共同研究] ボゴール動物学博物館(インドネシア)

    • 国名
      インドネシア
    • 外国機関名
      ボゴール動物学博物館
  • [国際共同研究] ユタ州立大学(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      ユタ州立大学
  • [国際共同研究] スリ・ジャヤワルデネプラ大学(スリランカ)

    • 国名
      スリランカ
    • 外国機関名
      スリ・ジャヤワルデネプラ大学
  • [国際共同研究] サラワク大学(マレーシア)

    • 国名
      マレーシア
    • 外国機関名
      サラワク大学
  • [国際共同研究]

    • 他の国数
      2
  • [雑誌論文] Dramatic dietary shift maintains sequestered toxins in chemically defended snakes2020

    • 著者名/発表者名
      Tatsuya Yoshida, Rinako Ujiie, Alan H. Savitzky, Teppei Jono, Takato Inoue, Naoko Yoshinaga, Shunsuke Aburaya, Wataru Aoki, Hirohiko Takeuchi, Li Ding, Qin Chen, Chengquan Cao, Tein-Shun Tsai, Anslem de Silva, Dharshani Mahaulpatha, Tao Thien Nguyen, Yezhong Tang, Naoki Mori, and Akira Mori
    • 雑誌名

      Proceedings of the National Academy of Sciences

      巻: 117 ページ: 5964-5969

    • DOI

      10.1073/pnas.1919065117/-/DCSupplemental

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] 生物が作り出す毒:どくどくしくない毒のはなし2020

    • 著者名/発表者名
      山下まり・此木敬一・稲垣英利・森 直樹・森 哲
    • 雑誌名

      化学と生物

      巻: 58 ページ: 43-59

  • [学会発表] Toads or fireflies? Which do Asian natricine snakes prefer as a source of steroidal toxins?2020

    • 著者名/発表者名
      Fukuda M., Mori A., and Chen Q.
    • 学会等名
      The 9th World Congress of Herpetology
    • 国際学会
  • [学会発表] ヤマカガシ(Rhabdophis tigrinus) が有する頸腺毒成分の地域的特徴2020

    • 著者名/発表者名
      井上貴斗、中田隆、吉永直子、Alan H. Savitzky、森哲、森直樹
    • 学会等名
      2020年度日本農芸化学会
  • [学会発表] 中国産ヤマカガシ類の頸腺毒の由来および頭部の形態変化に関する考察2020

    • 著者名/発表者名
      福田将矢・井上貴斗・Alan Savitsky・Piao Yige・城野哲平・Chen Qin・森直樹・森哲
    • 学会等名
      第67回日本生態学会大会
  • [学会発表] Does an Asian natricine snake recognize fireflies that have cardiac steroidal toxins?2019

    • 著者名/発表者名
      Fukuda M., Mori A., and Chen Q.
    • 学会等名
      The 36th International Ethological Conference
    • 国際学会
  • [学会発表] Unexpected origins of defensive compounds in animals2019

    • 著者名/発表者名
      Naoki MORI and Akira MORI
    • 学会等名
      The 10th Conference of Asia-Pacific Association of Chemical Ecologists
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] ヒキガエルかホタルか?中国産ヤマカガシ類の頸腺毒の由来に関する考察2019

    • 著者名/発表者名
      福田将矢・井上貴斗・Piao Yige・Chen Qin・森直樹・森哲
    • 学会等名
      日本爬虫類両棲類学会第58回大会

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公開日: 2021-01-27  

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