研究課題/領域番号 |
17H03721
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
藤井 紀行 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 准教授 (40305412)
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研究分担者 |
副島 顕子 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 教授 (00244674)
岩崎 貴也 神奈川大学, 理学部, 助教 (10636179)
池田 啓 岡山大学, 資源植物科学研究所, 准教授 (70580405)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 満鮮要素 / 分布変遷仮説 / 草原性植物 / 東アジア / 日本列島のフロラ / 分子系統地理学 |
研究実績の概要 |
800文字本研究課題三年目、コロナウィルスの影響により、予定していた中国調査は結局行うことができなかった。そこで中国の研究協力者に依頼して必要なサンプルを採集していただき、入手するという形で研究を進めた。国内においても九州、中国や東北地方において調査を行った。満鮮要素の種であるヒロハヤマヨモギ、タムラソウ、オカオグルマ、オキナグサ、シロスミレ、ヤツシロソウ、マツモトセンノウを中心に実験を進めた。葉緑体DNAのハプロタイプ解析に加え、次世代シーケンサーを用いたMIG-seq解析によりSNPデータを得た。今回新規に得られた成果として、ヤツシロソウ(キキョウ科)およびマツモトセンノウ(ナデシコ科)の解析結果を示す。両種とも満鮮要素の代表的な種であるが、大陸において広く分布してはいるが、日本国内では阿蘇・九重地域のみに局所分布することが知られている。したがって移入経路としては北海道を介した北方ルートではなく、朝鮮半島を介した西方ルートのみを考えればよいという利点がある。まず葉緑体DNAの約1000bpを用いたハプロタイプ解析において、両種とも日本の阿蘇集団内にはほとんど多型は検出されず、単型であることが示された。一方、大陸集団においては多くのハプロタイプが検出された。MIG-seq解析を用いた系統解析やSTRUCTURE解析、ネットワーク解析を通して、阿蘇集団と大陸集団の明瞭な系統やクラスターが認められた。これらの結果は、阿蘇集団が大陸からの一回の進入イベントによって生じたことを示唆している。また阿蘇集団と大陸集団の分岐年代については、DIYABC解析より、最終氷期の年代に相当する時期と推定された。以上の結果は、従来の満鮮要素の分布変遷仮説を支持するものである。今後は、得られた結果を論文化することに専念していきたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナウィルスやABS関係の許認可問題により、海外調査が行えず、最低限のサンプル採集を依頼するという手段によって研究を進めた。海外サンプルをもっと充実させたかったが、現時点では厳しい状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
日本の草原植物において、大陸系とされる遺存植物は約200種がリストアップされている。その中から本基盤研究において、約10種(オカオグルマ、オキナグサ、キスミレ、シロスミレ(変種のホソバシロスミレが満鮮要素とされる)、タムラソウ、ツチグリ、ノカラマツ、ヒロハヤマヨモギ、マツモトセンノウ、ヤツシロソウのサンプリングを進めデータを蓄積してきた。それらの多くからは従来の満鮮要素の分布変遷仮説を支持する結果が得られており、そのことに関して論文化を進めていく予定である。一方、シロスミレやノカラマツなど解釈に苦しむ種のあり、今後追加解析を行うかについて再検討が必要である。さらに満鮮要素の分布変遷仮説の再検証のために、新規の種でシオン、ミヤコアザミ、ヒゴシオン(いずれもキク科)の解析を予定している。一方、満鮮要素ではないが、多くの草原で出現する種として、シラヤマギクなどの新規の種の解析も検討中である。満鮮要素とされる種とされない種の比較検討は、今後重要な研究テーマとなると考えている。 本基盤研究の期間後半に入り、研究成果を論文化することをスピードアップさせる予定である。オキナグサの葉緑体DNAの解析やマイクロサテライト解析の成果はすでに論文化した(Takaishi et al. 2019)。キスミレについては、葉緑体DNAおよびRAD-seq解析で得られた結果をもとに論文原稿を作成し、現在投稿中である。現在はヒロハヤマヨモギおよびツチグリの葉緑体DNAおよびMIG-seq解析で得られた結果を論文としてまとめている段階である。今後、オキナグサやタムラソウ、ヤツシロソウ、マツモトセンノウなどの解析について補足的なデータを追加し、論文化へと移行したいと考えている。
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