研究課題/領域番号 |
17H03725
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
岸田 治 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (00545626)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 成長 / 捕食 / 被食 / 共食い / 外来種 / 性差 |
研究実績の概要 |
【研究1,2】エゾサンショウウオの襟裳と千歳の集団とそれらの交配系を用いた実験を行った。その結果、襟裳の集団は千歳の集団に比べて攻撃形態の発現能力が高いこと、交配集団はその中間的な値をとることが示されたが、攻撃形態の発現が期待していたよりも不明瞭であった。条件を変更した再実験により、仮説の再検証に取り組む必要があると考えられた。 【研究3】捕食―成長フィードバックの生起とその結果としての相互作用が地理集団によって異なるかを、襟裳と千歳の両生類を材料にした実験で確かめた。その結果、千歳よりも襟裳ではサンショウウオとカエルの捕食―被食相互作用の強度にばらつきが生じやすいことが明らかになった。これは、千歳に比べ襟裳のサンショウウオでは共食いが起きたときに、より強く捕食―成長フィードバックがかかるためであった。カエル幼生については、千歳に比べ襟裳の防御力が高く捕食されにくいことも明らかとなった。以上は、捕食者と被食者の遺伝的な性質が相互作用の強度に影響することと、そのばらつきが成長の遺伝的違いによって生じていることを示している。 【研究4】高齢コホートの存在が複数の地域の孵化コホートに与える影響を調べたが、高齢コホートの有意な影響自体が生じず、これは、実験操作上の問題が浮き彫りになった。 【研究5】予備実験により、国内外来種のアズマヒキガエルの孵化直後の幼生は、毒餌として働くことでエゾサンショウウオ孵化直後の成長を抑制することが示唆された。 【発展的課題】これまでは両生類を材料に個体成長の研究に取り組んできたが、魚類も材料とした研究を開始した。その結果サクラマス幼魚では、雌雄によって成長が異なることや、集団中にオスが多いほど成長が抑制されることがわかり、個体成長の制御要因として性の重要性が示唆された。このほか、野外でのサケ科魚類の成長を制御する要因についてのモニタリングも開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新奇な知見として、捕食者と被食者の表現型可塑性の遺伝的変異が、相互作用強度のばらつきの地理的な変異を生じさせる要因になることを明らかにできた。これは、食物網の空間的変異の創出機構についての新しい知見であり、期待通りの成果といえる。捕食者の表現型可塑性の遺伝的変異性の検証については、実験条件が悪く、結果が不明瞭であったが、平均値においては期待通りのパターンが得られていることから、来年度以降再実験を試みたい。研究5は予備的な研究ではあったが、外来種が捕食者の成長を妨げることを示唆する結果も得られており、今後の発展を大いに期待できる。さらに本年度は、新たに魚類を研究対象とすることで、個体成長の研究に広がりを持たせた。両生類と同様に種内で明瞭な個体間相互作用が観察されるサクラマスを材料とした研究では、幼魚期の成長が雌雄によって異なることや、集団の性比の影響を受けるなど、新奇的な結果も得ることができた。以上のように一部の研究については課題が生じたものの、多くの研究は予定通り進められたこと、また、新たに取り組んだ研究では、当初想定していなかった成長制御要因を発見することもでき、プロジェクト全体としては順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
両生類を材料とした研究では、個体成長の条件依存性についてさらに複雑なシナリオでの研究を行う。これまでは当年に孵化した幼生間の相互作用に着目して研究を進めてきたが、今後は捕食者の齢構成を組み込んだ研究を展開する。複雑なシナリオでの研究であるため、これまでに培った操作実験の技術を最大限に生かし、明瞭かつ頑健な結果を得ていきたい。 一方で、今年度から開始した魚類を対象とした研究については、今後は野生個体のモニタリングによるアプローチを重用する。北大苫小牧研究林を流れる幌内川に生息するサケ科魚類にICタグを装着し、個体識別することで、個体の成長を左右する要因を探る。特に、河川内での個体の行動や生活史が個体成長とどのような関係にあるのかなど、探索的な研究を行う。 以上のように、対象生物の特徴に合わせた効果的なアプローチを採用し、個体成長の生態学について理解を深めたい。
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