研究課題
研究① 捕食リスク信号としての近接刺激の可能性:被食者が「捕食者の接触や至近距離での視覚刺激などの近接的信号」を授受し、防御的な行動や形態を発現するかをエゾアカガエル幼生を被食者のモデルとした実験で調べた。捕食者としてエゾサンショウウオ幼生とルリボシヤンマ属のヤゴを用いたが、サンショウウオを使った実験では、捕食は起こらないが接触は生じるような近接処理区を再現できず、不明瞭な結果となった。一方で、ヤゴを用いた実験では、接触を伴う近接処理区を再現することができ、明瞭な結果が得られた。ヤゴがいる水槽において、ヤゴの排泄する化学物質だけが伝わるような場合よりも、直接攻撃を受けるような近接性を再現した場合に、エゾアカガエル幼生の行動的、形態的防御が強く発現することが確かめられた。研究②捕食者の形態的反応基準の遺伝的基盤:エゾサンショウウオ幼生の餌条件の違いに応じた形態的反応基準に関して、2集団の人工交雑系を用いた実験でその遺伝的変異性の検証に取り組んだ。実験の結果、エゾサンショウウオ幼生の相対顎サイズが遺伝系統によって異なるというパターンは得られたものの、過去の研究で確かめられてきた明瞭な形態変異を実験的に再現することができなかった。次年度、実験条件を変更し、再実験する必要があると判断した。研究③生活史型に依存したサクラマス幼魚の成長様式:幌内川においてサクラマス幼魚の個体追跡モニタリング調査を行い、2020年春に海へと下った個体(降海型)と下らなかった個体(残留型)について、降海時期より前の半年(2019年10月~2020年3月)の成長を比較した。その結果、降海型では、秋に小さなサイズの個体ほど冬季に早く成長するが、残留型ではそのようなサイズ依存の成長様式を示さないことがわかった。さらに降海型については、春になってもなおサイズの小さな個体は降海する時期が遅いことも明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
一部のテーマでは実験の条件設定がうまく行かず期待通りの成果が上がっていないものの、改善点が把握できていること、さらに、当初想定すらしていなかった研究への発展もみられるテーマもあることから、プロジェクト全体の進捗状況は順調な状態にあると自己評価している。
研究②捕食者の形態的反応基準の遺伝的基盤の検証については、条件を変更した上で再実験を試みる。今年度の実験に供した個体(人工交雑系)については、継続飼育することで、将来の研究に役立てる。2021年度が最終年度であるため、過去4年間の成果を順次出版すべく、補完的データを取りつつ論文執筆へのエフォートを高める。
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Current Herpetology
巻: 40 ページ: 103-106
10.5358/hsj.40.103
Zoological Science
巻: 37 ページ: 563-574
10.2108/zs190140