世界各地で外来種が生態系を破壊する問題が深刻化しているが、他の地域から持ち込まれた生物種の全てが新しい環境に定着できるわけではない。北米原産のアメリカザリガニは、赤道地域から高緯度地域に至るまで世界中の様々な環境に適応し、現在も生息範囲を広げている。近年、高温水性である本種が寒冷地においても定着確認されるようになり、侵略的外来種の中にでも環境適応能力の高さが際立っている。本研究の目的は、少数個体からでも生息分布拡大が可能で、短期間で過酷な寒冷地にも侵入したアメリカザリガニの高い環境適応能力の遺伝的基盤を明らかにすることである。本研究で得られる成果は、アメリカザリガニが持つ高い侵略性の基盤を解明するだけでなく他の外来種にも応用が可能で、外来種全体の侵入メカニズムの理解に繋がる。アメリカザリガニの低温耐性に関わる領域の同定を目指したQTL-seq実施に向けて、沖縄集団と札幌集団のそれぞれからサンプリング個体を掛け合わせを行った。抱卵した雌のうち3個体からF1個体を取得できた。低温に応答する遺伝子を推定するため、低温に1週間暴露した沖縄と札幌の個体からRNAを抽出してRNAseqを実施した。同一条件でRNAを抽出した個体がPCA解析でクラスタを形成しなかったため、解析方法の見直しが必要となったが、低温に暴露した札幌個体の遺伝子発現は、明確に他条件と異なるパターンを示し、統計的に有意に低温に応答する遺伝子を多数得た。
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