侵略的外来種におけるボトルネック後の遺伝的多様性維持と低温適応機構解明

2019 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 17H03728
• 研究機関: 東北大学
• 研究代表者: 牧野 能士 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (20443442)
• 研究期間 (年度): 2017-04-01 – 2021-03-31
• キーワード: 侵略的外来種 / 環境適応

研究実績の概要

北米原産のアメリカザリガニは、赤道地域から高緯度地域に至るまで世界中の様々な環境に適応し、現在も生息範囲を広げている。近年、高温水性である本種が寒冷地においても定着確認されるようになり、侵略的外来種の中にでも環境適応能力の高さが際立っている。本研究の目的は、少数個体からでも生息分布拡大が可能で、短期間で過酷な寒冷地にも侵入したアメリカザリガニの高い環境適応能力の遺伝的基盤を明らかにすることである。アメリカザリガニの低温適応に関わる遺伝子座を推定するため、寒冷地である札幌、青森、鎌倉、原産地(米国)から採取したアメリカザリガニのゲノムDNAを8個体ずつをプールして得られたSNPデータの解析を実施した。札幌集団に特異的な遺伝子座の絞り込みの指標として、dAF(アリル頻度の差)、Fst、PBS(population branch statistics)を計算し、札幌と本州(青森、鎌倉)、外群として米国集団を用いて比較を行った。その結果、札幌集団特異的にアリル頻度が偏ったLinkage group(LG)として、LG60とLG150を検出した。LG60に最もシグナルの強いSNPの座位にはgene7912.1が存在しており、また、LG150に最もシグナルの強い座位にはgene23081.1が存在していた。相同性検索によりこれらの遺伝子機能を調査したところ、gene7912.1は機能未知であったものの、gene023081.1はlectin-like proteinの相同遺伝子であった。lectinは植物において低温耐性との関連が報告されている。LG60、LG150上でピークが観察された領域周辺には、gene23081.1、gene7912.1以外にも複数の遺伝子が含まれていたため、それらの遺伝子についても調査を進めている。

現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

昨年度までに低温条件において札幌集団の個体のみが低温条件下で応答する遺伝子の絞り込みを行ってきた。今年度は、複数の集団を用いたpool-seqにより低温適応に関わる遺伝子候補の絞り込みを実施した。異なる二つの手法で絞り込んだ遺伝子に共通する遺伝子が、低温適応に関わる遺伝子として期待されたが、そのような遺伝子は一つも存在しなかった。

今後の研究の推進方策

これまで、RNA-seqとPool-seqで絞り込んだ候補に共通な遺伝子は見つかっていないが、解析の条件を変更するなどして、引き続き候補遺伝子の探索を行う。同定した遺伝子周辺の座位のアリル頻度が温暖地域と寒冷地域で異なるか、複数の地域からサンプリングした個体を用いてゲノム情報を調査する。共通遺伝子が見つからなかった場合でも、いずれかの手法で候補となった遺伝子の機能を参照しながら、特に低温適応との関連が期待される遺伝子について、RNAiにより機能を抑制して低温に対する耐性の変化を調査する。

研究成果

• [雑誌論文] Accumulation of deleterious mutations in landlocked threespine stickleback populations (2020)
  • 著者名/発表者名: Yoshida K, Ravinet M, Makino T, Toyoda A, Fujiyama A, Kokita T, Mori S, and Kitano J.
  • 雑誌名: Genome Biology and Evolution 巻: in press ページ: in press
  • DOI: 10.1093/gbe/evaa065
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [雑誌論文] Sensitivity to gene dosage and gene expression affects genes with copy number variants observed among neuropsychiatric diseases (2020)
  • 著者名/発表者名: Yamasaki M, Makino T, Khor SS, Toyoda H,, Miyagawa T, Liu X, Kuwabara H, Kano Y,, Shimada T, Sugiyama T, Nishida H, Sugaya N, Tochigi M, Otowa T, Okazaki Y, Kaiya H, Kawamura Y, Miyashita A, Kuwano R,, Kasai K, Tanii H, Sasaki T, Honda M, Tokunaga K
  • 雑誌名: BMC Medical Genomics 巻: 13 ページ: 55
  • DOI: 10.1186/s12920-020-0699-9
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [学会発表] 生態系が駆動するゲノム進化 (2020)
  • 著者名/発表者名: 牧野能士
  • 学会等名: 日本生態学会
  • 招待講演
• [学会発表] Genome evolution of vertebrates after whole genome duplications (2020)
  • 著者名/発表者名: 牧野能士
  • 学会等名: 日本分子生物学会
  • 招待講演
• [備考] 進化ゲノミクス研究室
  • URL: https://www.lifesci.tohoku.ac.jp/evolgenomics