研究実績の概要 |
代表の嶋田は、寄生蜂ゾウムシコガネコバチと同胞種A. quinariusの推移行列による適応度の感度分析を行った。A. quinariusは摂食することで長生きし、その表現型可塑性の適応度への効果を調べた。分担者の松山は嶋田と研究協力者の柴尾とともに、カイロモンを利用した効率的な宿主探索の学習機構を明らかにした。蜂が宿主探索に利用しているカイロモンとして、アズキゾウに特有の主成分11-methylheptacosane(11-MeC27)、およびヨツモンに特有の主成分9-methylheptacosane(9-MeC2)、3-methylnonacosane(3-MeC29)、9,13-dimethylnonacosane(9,13-diMeC29) を特定し、天然物に似せて4成分を0.1個体当量以上でブレンドすることで蜂の正の匂い学習行動を再現できた。これら4成分はマメゾウムシ2種の配偶に関わる接触刺激性フェロモン(体表炭化水素類)であり、蜂は確実に宿主を発見するための手段として、宿主の匂いを手がかりをカイロモンとして利用・学習していることが分かった。蜂はカイロモン濃度を個体数密度のシグナルとして利用しており、カイロモン成分を単独または混合カクテルとして知覚し、数の多い宿主種に対する探索像を形成・記憶することで、正の頻度依存捕食を実現すると考えられる。一方、蜂は産卵なしでカイロモンだけを嗅ぎ続けると馴化が起こり、蜂の興味がもう片方の種のカイロモンに移った。蜂のカイロモンに対する馴化能力は、現在の宿主種を諦めて新しい宿主種へと宿主選好性を切り替えることを可能にするため、カイロモンに対する正の学習能力とともに、数の多い餌種を効率的に探索するうえで重要である。分担者の笹川は、ゾウムシコガネコバチ雄蜂の雌の匂いに関する学習行動を分析した。この成果は、国際的に貴重な研究である。
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