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2017 年度 実績報告書

協同繁殖種における装飾の性差と同性内変異:社会淘汰理論の検証

研究課題

研究課題/領域番号 17H03733
研究機関総合研究大学院大学

研究代表者

沓掛 展之  総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 講師 (20435647)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2021-03-31
キーワード行動生態 / 協同繁殖 / 性淘汰 / 社会淘汰 / 脊椎動物
研究実績の概要

本研究は、哺乳類・鳥類・魚類などの脊椎動物における協同繁殖種の研究を野外・飼育状況下で進め、分類群間で見られる行動学的側面の共通性・多様性を明らかにすることを目的とする。また、協力的社会の形成に関する行動生態学的決定要因を抽出し、一般性の高い概念的理論の構築を行うことを目指す。
本年度の研究実績は以下の三点にまとめることができる。
まず、最初に、協同繁殖するといわれている魚ベタ・ブロウノルムを対象に、装飾の適応的意義を明らかにしたことが実績としてあげられる。本種の装飾は成熟オスに高い割合、成熟メスに低い割合で存在するという両性での発現、性差、同性内変異を同時に示す稀有な形質であり、その機能を古典的な性淘汰理論で説明することは難しい。本年度行なった実験により、協同繁殖が生み出す社会淘汰(子育て能力・闘争能力の社会的信号)の予測を検証することができた。
二番目の実績が、協同繁殖しメス優位な性質を示すタンガニーカ湖のシクリッド、ジュリドクロミス・レガニを対象に、攻撃性の性差に関する分析を行ったことである。とくに、攻撃行動の連鎖から、八つ当たり行動(攻撃直後、被攻撃個体が、当初攻撃に参加にしてなかった第三者個体に行う攻撃)の検出を行なった。その結果、八つ当たり行動の生起を統計的に確認することができた。
三番目の実績として、血縁淘汰における繁殖価の役割を総説した研究があげられる。血縁淘汰は、協同繁殖を含むさまざまな協力的社会において働いている。血縁淘汰におけるハミルトン則では、利他行動の行為個体、受け手個体の繁殖価が大きな役割を果たすと予測されるが、その検証はこれまでに数少ない。本年は、哺乳類を対象に、繁殖価の役割に関する文献調査を行い、総説論文を投稿した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

飼育ブロウノルムを対象にした研究では、個体間の対面実験を行い、装飾が行動に与える影響に関して、配偶者選択・社会淘汰の観点からのデータを揃えることができた。また、個体を安定して飼育維持できるようになってきたので、このままの飼育体制を継続し、次年度以降の協同繁殖に関する研究につなげる目処がついた。ただし、個体の管理・維持に改善の余地がみられるので、次年度はこの点に関して十分に配慮しながら、研究をスムーズに遂行できるように工夫するつもりである。

ジュリドクロミスレガニを対象にした研究では、八つ当たり行動の存在を世界で初めて示すことができた。さらに、八つ当たり行動には、行為個体が自身の地位を安定化させる機能があることを示すことができた。これらの点から、シクリッドにおける巧妙な社会的戦術を明らかにすることができたのが大きな収穫である。

血縁淘汰における繁殖価の役割は、1960年代から70年代の研究において提唱されていた。その後、血縁淘汰の実証的検証が活発になるにつれて、血縁度の影響ばかりが着目され、繁殖価を考慮した研究はなくなってしまっていた。本年、投稿した総説論文では、哺乳類において繁殖価が重要であることが示されており、血縁淘汰の検証において、重要な文献となりうる。この投稿中の論文をまとめることができたのが大きな成果である。

今後の研究の推進方策

飼育ブロウノルムを対象にした研究では、個体の安定的な飼育を継続し、協同繁殖するといわれている社会形態の利得構造を分析する段階に移行する。とくに、雌雄間の役割分業、ヘルパーの存在が繁殖個体の行動に与える効果、配偶システムの可塑性、同性内競争の性差を調べる。
方法:水槽でペア飼育し、繁殖させる。群れ内の社会行動(攻撃、服従、求愛ディスプレー、行為個体・被行為個体)と子育て行動(泡巣の作成、卵の保護、幼魚の保護、他種からの防衛)を全て記録する。他種からの防衛に関しては、同所的に生息する他種との混合飼育、もしくは侵入種の模型を用いて実験する。個体は適宜、購入により補充し、計画的な繁殖と家系図構築によって、十分な個体数の管理・確保を行う(備品・消耗品を使用)。ブロウノルムの繁殖状況に応じて、進行状況を柔軟に修正する。実験成果は学会、論文として発表する(旅費、英文校閲費を使用)。
協同繁殖種である魚ジュリドクロミスレガニを対象に、八つ当たり行動が行為個体のストレスレベルを低減させるという仮説を検証する。ジュリドクロミスレガニがみせる八つ当たりの機能がconflict managementであるということは確認できたが、他分類群で見つかっているストレス低減の効果は検証できていない。ストレスの計測方法を吟味し、本仮説の検証を行えると見込んでいる。
投稿中である繁殖価の論文を必要に応じて改変し、受理まで持っていく。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2018 2017 その他

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Sex differences in intrasexual aggression among sex-role-reversed, cooperatively breeding cichlid fish Julidochromis regani.2018

    • 著者名/発表者名
      Ito MH, Yamaguchi M, Kutsukake N.
    • 雑誌名

      Journal of Ethology

      巻: 35 ページ: 137-144.

    • DOI

      10.1007/s10164-016-0501-9

    • 査読あり
  • [学会発表] Redirected aggression as a conflict management tactic in the social cichlid fish.2017

    • 著者名/発表者名
      Kutsukake, N., Ito, MH.
    • 学会等名
      Gottinger Freilandtage. Social complexity: patterns, processes and evolution. Gottingen, Germany.
    • 国際学会
  • [備考] 代表者のwebsite

    • URL

      https://sites.google.com/view/nkutsukake/home

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公開日: 2019-12-27  

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