• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2018 年度 実績報告書

環境DNA/RNAを利用した生物調査の新展開:水を汲んで生物の行動や状態を知る

研究課題

研究課題/領域番号 17H03735
研究機関神戸大学

研究代表者

源 利文  神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (50450656)

研究分担者 山中 裕樹  龍谷大学, 理工学部, 講師 (60455227)
研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワード環境DNA / 環境RNA / オオサンショウウオ / ゼブラフィッシュ / RNA/DND比
研究実績の概要

本研究では、環境DNA濃度の時間変化、環境RNA、環境DNAのメチル化状態の3つのマーカーを用いて水中生物の行動や状態を知る手法の開発を当初目的とした。このうち、申請時点からチャレンジングであったメチル化状態については昨年度の時点で検討を中止し、環境DNAと環境RNAに注力することとしている。
環境DNA分析では、オオサンショウウオを対象として兵庫県の羽束川および本年度から新たに調査地に加えた広島県の江の川水系の小河川において調査を行った。マーカーとして当初計画のミトコンドリアDNAに加えて核DNAも用いた。その結果、産卵行動に伴って環境DNA量が増加すること、産卵を示す環境DNAの一時的なピークは1日程度で消失すること等を明らかにした。また、小河川規模では環境DNAが反映する範囲は最大200m程度であることも判明した。
環境RNA分析においては、ゼブラフィッシュを対象とした室内実験を実施した。昨年開発したハウスキーピング遺伝子(b2m)以外に、鰓表皮、腸管上皮、体表でそれぞれ多く発現する遺伝子に対して新たなプライマーセットを作成した。水槽水から得た環境RNAサンプルからこれらの遺伝子に由来するmRNAを検出することができ、水生生物が水中に放出している環境DNAおよびRNAが外胚葉由来の組織細胞に由来するものだという傍証を得ることができた。また、給餌ありなしの条件で飼育した魚を用意し、筋組織および飼育水中から得た核酸試料について、チトクロームb遺伝子のDNAとRNAの量を相対比較した。予備解析の結果、絶食条件にあった個体では両試料ともに、RNA/DNAの比率が低い傾向がみられた。RNA/DNA比は、たんぱく質合成活性と関連しており、健康状態の目安として利用されてきた指標である。本結果から、環境水中から回収した核酸に基づいて、対象生物の活性について情報を得られる可能性が示された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究課題では環境DNA濃度の時間変化、環境RNA、環境DNAのメチル化状態の3つをマーカーとして水中生物の行動や状態を知る手法の開発を行うことを計画していたが、予備的検討の結果から環境DNAのメチル化状態は適切なマーカーでない可能性がでてきたため、平成29年度の時点で環境DNA濃度の時間変化と環境RNAに注力することとして研究を進めている。
環境DNAでは、当初計画よりも調査範囲を広げ、人工巣穴のある広島県の河川を調査地に加えた。この結果産卵のタイミングを確認しながら環境DNA濃度の変化を調べることが可能になり当初計画していなかった産卵のタイミングをどれほどの時間精度で測れるかという重要な情報を得ることができた。
環境RNAでは、当初は繁殖に関わるメッセンジャーRNAマーカーを探索する予定であったが、ゼブラフィッシュの飼育条件下での繁殖のコントロールが困難であったこと、また、そもそもの基礎となる環境水中からのRNAの回収・抽出がDNAの場合と比べると安定していないことがあり、より基礎的な実験に集中した。これまでにRNAの回収量や時間的な水中での分解など、環境RNAの水中での動態をより精密に明らかにすることが不可欠と判断して、それを可能とするハウスキーピングの定量系の開発を終えた。引き続き、安定的なRNAの安定的な分析方法を探るべく検討を続ける。また、コイを対象とした繁殖に関わるマーカーの検出系開発を進めており、複数の繁殖期特異的マーカー候補を発見している。
このように当初計画からの変更はあるものの、より基礎の部分を精緻に進めていることや、別のアプローチとしてRNA/DNA比を分析して成果をあげていることなどから、全体としては当初予定と比較して見劣りしない成果が得られていると考えている。

今後の研究の推進方策

最終年度である平成31年度も環境DNAと環境RNAの分析に注力する。
環境DNAでは、これまでのオオサンショウウオに加え、コイ、ブルーギル、オオクチバスの産卵行動の検出を試みる。これは、当初計画にはなかったことであるが、これまでの研究の進展を受けて変更するものである。
環境RNAでは、ひきつづきゼブラフィッシュの水槽実験を行うことに加え、コイの野外水槽実験を行う。コイの野外水槽実験は当初計画にあった野外のフィールド調査に代えて行うものである。これまでのフィールドでの検証結果が安定しないため、よりコントロールのしやすい環境で研究を進めるためである。

  • 研究成果

    (13件)

すべて 2019 2018 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 1件)

  • [国際共同研究] 上海交通大学/浙江海洋大学/温州大学(中国)

    • 国名
      中国
    • 外国機関名
      上海交通大学/浙江海洋大学/温州大学
  • [国際共同研究] チェンマイ大学(タイ)

    • 国名
      タイ
    • 外国機関名
      チェンマイ大学
  • [雑誌論文] Real‐time polymerase chain reaction assays for environmental DNA detection of three salmonid fish in Hokkaido, Japan: Application to winter surveys2019

    • 著者名/発表者名
      Toshifumi Minamoto, Kana Hayami, Masayuki K. Sakata, Akio Imamura
    • 雑誌名

      Ecological Resaerch

      巻: 24 ページ: 237-242

    • DOI

      10.1111/1440-1703.1018

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Environmental DNA reveals nonmigratory individuals of Palaemon paucidens overwintering in Lake Biwa shallow waters2018

    • 著者名/発表者名
      Qianqian Wu, Ken Kawano, Yoshitoshi Uehara, Noboru Okuda, Masamichi Hongo, Satsuki Tsuji, Hiroki Yamanaka, Toshifumi Minamoto
    • 雑誌名

      Freshwater Science

      巻: 37 ページ: 307-314

    • DOI

      10.1086/697542

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 野外におけるコイの環境RNAの検出2019

    • 著者名/発表者名
      姜明揚, 前川和也, 中尾遼平, 源利文
    • 学会等名
      第66回日本生態学会大会
  • [学会発表] オオサンショウウオの繁殖行動は水で検出可能か?~人工巣穴での環境DNA調査より~2019

    • 著者名/発表者名
      森本哲平, 田口勇輝, 源利文
    • 学会等名
      第66回日本生態学会大会
  • [学会発表] 環境DNA分析法を用いた琵琶湖におけるスジエビの動態の解明2019

    • 著者名/発表者名
      ウ倩倩, 河野健, 石川俊之, 坂田雅之, 中尾遼平, 平岩将良, 辻冴月, 山中裕樹, 源利文
    • 学会等名
      第66回日本生態学会大会
  • [学会発表] 環境RNA分析を用いた環境核酸の由来組織の推定2019

    • 著者名/発表者名
      釣健司, 池田静也, 廣原嵩也, 島田康人, 源利文, 山中裕樹
    • 学会等名
      第66回日本生態学会大会
  • [学会発表] 環境RNAと環境DNAによる魚類の検出感度の比較とその時間変化2019

    • 著者名/発表者名
      中道友規, 釣建司, 寺園裕一郎, 加茂耕太朗, 石原孝, 山中裕樹
    • 学会等名
      第66回日本生態学会大会
  • [学会発表] 環境DNA分析におけるPMA色素の有用性2019

    • 著者名/発表者名
      廣原嵩也, 釣健司, 宮川光一, 山中裕樹
    • 学会等名
      第66回日本生態学会大会
  • [学会発表] 環境DNA分析手法を用いたオオサンショウウオの繁殖期推定2018

    • 著者名/発表者名
      森本哲平, 中尾遼平, 源利文
    • 学会等名
      第1回環境DNA学会東京大会
  • [学会発表] Environmental DNA analysis for ecology and conservation2018

    • 著者名/発表者名
      Hiroki Yamanaka
    • 学会等名
      6th Taiwan-Japan Ecology Workshop, Tainan
    • 国際学会
  • [学会発表] 琵琶湖産スジエビの時空間分布および移動タイミングの推定2018

    • 著者名/発表者名
      ウ倩倩, 河野健, 石川俊之, 辻冴月, 山中裕樹, 源利文
    • 学会等名
      第1回環境DNA学会東京大会

URL: 

公開日: 2019-12-27  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi