研究課題/領域番号 |
17H03744
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鳥山 欽哉 東北大学, 農学研究科, 教授 (20183882)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 育種学 / 遺伝学 / 遺伝子 / ゲノム / 植物 |
研究実績の概要 |
ヘテロ接合体で優性に働く核コードの雄性不稔性は、自殖性植物のイネを効率的に他殖させ、循環選抜育種を行う際に有用であり、遺伝子の単離が求められている。我々は、フィリピンのイネ品種LEBEDに台中65号 (T65) を連続戻し交雑して得られた雄性不稔系統が, 優性に働く核コードの雄性不稔性によるものであると考え、本研究では、雄性不稔遺伝子のクローニング、原品種LEBEDが持つと予測される雄性不稔抑制遺伝子のクローニング、さらに、循環選抜育種の実証試験を行うことを目的とした。 平成29年度に行った遺伝学的解析の結果、10番染色体にヘテロで機能する雄性不稔遺伝子(Sterility: S)を持ち、不稔性は胞子体型に働くことを明らかにした。10番染色体の候補領域がヘテロになると、ほとんど全ての花粉にデンプン蓄積が見られず、葯が裂開しなかった。発育過程の葯切片を観察したところ、タペート細胞と中間層細胞の崩壊に異常が見られた。 LEBED×T65 BC6F1世代384個体、および、BC7F1世代192個体を用いてファインマッピングを行った結果、INDELマーカーKNJ8-indel704とC5-indel8296に挟まれた領域に雄性不稔遺伝子が存在することが分かった。さらに、内側にINDELマーカーを作製して調査したところ、雄性不稔遺伝子の候補領域を243 kb (日本晴相当) に絞り込むことが出来た。一方で、雄性不稔遺伝子をヘテロに持つF1は可稔性であったことから、雄性不稔遺伝子を抑制する遺伝子(Epistasis: E)の存在が示唆された。雄性不稔遺伝子をヘテロに持つBC2F1集団 (BC1F1可稔個体×T65) を用いた雄性不稔抑制遺伝子のラフマッピングの結果、6番染色体のKNJ8-indel 445付近に雄性不稔抑制遺伝子が存在することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年度は、雄性不稔遺伝子(Sterility: S)の解析としてラフマッピングを目標としたが、候補領域を243 kb (日本晴相当) に絞り込むことができたため、当初の計画以上に進展していると判断される。 雄性不稔抑制遺伝子(Epistasis: E)の解析においてもラフマッピングを行う目標としていたが、目標通り実行することができた。 これまでの成果をとりまとめ、国際学会で発表するとともに、国際雑誌RICEに投稿することができ、一部修正掲載可となっている。このため、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1. 雄性不稔遺伝子(Sterility: S)の解析:雄性不稔遺伝子(S)の候補領域を243 kb (日本晴相当) に絞り込んでいるので、平成29年度に得られたLEBED×T65戻し交雑集団を用いてS遺伝子のファインマッピングを継続する。候補領域に存在するLEBEDの遺伝子とその発現を調査し、S遺伝子候補を明らかにする。 2. 雄性不稔抑制遺伝子(Epistasis: E)の解析:LEBED×T65 BC2F1の集団の中でS遺伝子をヘテロに持ち、可稔性の個体はE遺伝子を保持していると期待される。このような個体にT65を戻し交雑した種子を得ているので、これらを栽培し、稔性が高い個体に戻し交雑を続行し、E遺伝子マッピング集団を得る。 3. 循環選抜育種の実証試験:LEBED に由来する雄性不稔遺伝子が他の品種でも優性に機能することを確かめるため、様々なイネ品種(コシヒカリなどの日本の主要品種および海外の品種;World rice core collection (WRC) を花粉親として、LEBED×T65雄性不稔系統に交雑する。これらは、循環選抜育種に用いる育種素材となると期待される。
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