研究課題/領域番号 |
17H03745
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平野 博之 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (00192716)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 発生分化 / 形態形成 / 葉 / メリステム / 発生遺伝学 / イネ (Oryza sativa) / 転写制御 / エピジェネティックス |
研究実績の概要 |
イネの発生・分化の分子機構を理解することを目的とし,主に葉の発生に焦点を当て,以下の様な研究を遂行した。 [1] WOX遺伝子ファミリーの一員であるWOX4は,茎頂メリステムを維持する促進因子として,当研究室の先行研究により同定された (Ohmori et al. Plant Cell, 2014)。本研究では,DEX誘導系を用いて,葉の発生初期にWOX4遺伝子の発現を低下させ,その効果を解析することにより,葉の発生におけるWOX4の機能の解明を目指した。WOX4の発現を低下させると,維管束分化の停止や中肋形成の不全,葉肉細胞の活性低下など,重篤な異常が引き起こされた。この時,LOG遺伝子の発現が低下することから,この異常にはサイトカイニンが関わっていることが示唆された。トランスクリプトーム解析を行った結果,WOX4は,細胞周期やホルモン作用などに関わる遺伝子など多くの遺伝子の発現を制御していることが明らかとなった。これらの結果から,WOX4はイネの葉の初期発生を制御する鍵因子であると結論した。 [2] 葉の形態が異常となった hal1変異体の解析を行った。hal1の葉は細く上向きにカールしていること,その結果,葉は一見直立して見えることが判明した。また,hal1変異体は不完全優性であることを示した。組織学的解析の結果,カールする原因は,機動細胞の成長が不完全であることが明らかとなった。さらに,hal1変異は,内外穎のサイズ制御を通して,小穂形態にも影響を与えていることが示された。 [3] 細葉の表現型を示す dsl1 変異体 (alm2より改名) や異型葉的性質を示すcul1変異体を用いて,葉の形態形成に関する発生学的研究をすすめた。また,分げつ形成が不全となったted1変異体やメリステムの維持制御を制御する遺伝子に着目して,腋芽形成の分子機構の解明を目指す研究を遂行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
[1] WOX4が葉の初期発生に重要な役割を果たしていることを明らかにし,論文として発表した (Yasui et al., PLOS Genetics, 2018)。 [2] hal1変異体の表現型の解析結果をまとめ,論文として発表した (Matsumoto et al., GGS, 2017)。 [3] dsl1変異体は,当初細葉という形質を示したため,葉の形態形成の分子機構を解明する目的で研究を開始した。詳細な表現型を行った結果,dsl1では,葉の葉脈パターンや表面構造にも影響があることが判明した。さらに,葉のみではなく,植物体全体や花序(穂)にも,表現型が現れることが判明し,DLS1はイネの発生・形態形成に多面的なはたらきをしていることが明らかになりつつある。また,ポジショナルクローニング法により遺伝子単離を進め,ほぼ,dsl1変異の遺伝子を同定している。 cul1変異体を用いた研究も順調に進んでおり,植物の成長に伴って,葉の形態が変化するというユニークな性質がわかりつつある。これまでの研究により,CUL1は転写制御に関わるタンパク質をコードしていることが判明しているので,cul1変異体と野生型との発現を比較するために,マイクロアレイ解析を行い,どのような遺伝子がCUL1によって制御されているのかを解明するための研究も進めている。 ted1変異体を解析した結果,腋芽は正常に形成されること,腋芽の伸長が抑制されていることが判明した。腋芽伸長には,オーキシンなどいろいろな植物ホルモンが関与するため,ホルモン作用との関連も視野に入れて解析を進めている。腋芽メリステムに関しては,幹細胞の確立や維持という観点から,既知遺伝子の機能との関連で研究を進め,新たな知見が得られつつある。 以上の様に,2つの論文を発表し,他の研究も順調に進んでいることから,上記のような自己評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
dsl1変異体に関しては,葉以外の表現型を詳細に解析し,DSL1遺伝子が,イネの形態形成全般にどのように関わっているのかを調べる。現在一つに絞っているDSL1の候補遺伝子を,CRISPR-CAS9法により破壊し,表現型を解析し,dsl1と比較検討する。また,トランスクリプトーム解析を行い,DSL1がどのような遺伝子の発現を制御し,下流遺伝子と表現型との関連を調べる。 CUL1に関しては,マイクロアレイ解析によって得られたデータを用いて,詳細な解析を進める。cul1変異体は植物の成長に伴って,葉の形態が変化するため,野生型とcul1変異体の成長初期の葉原基と後期の葉原基を用いて,4つの発現プロファイルを比較する。また,野生型のCUL1ゲノムをcul1変異体に導入し,表現型が相補されるかどうかを検討する。 ted1に関しては,ポジショナルクローニング法と次世代シーケンサー解析を併用して,原因遺伝子の同定を行う。 同定された場合には,当該遺伝子をCRISPR-CAS9により破壊し,表現型を観察する。また,ted1変異とホルモン作用との関連の解析を進める。
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