研究課題/領域番号 |
17H03747
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
那須田 周平 京都大学, 農学研究科, 准教授 (10273492)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 配偶子 / 致死遺伝子 / 利己的遺伝子 / segregation distortion / 染色体切断 / ゲノム編集 |
研究実績の概要 |
コムギ近縁野生種Aregilops sharonensisからパンコムギに導入されたGc2-4Ssh遺伝子を含むAe. sharonensisクロマチンはコムギの4B染色体の末端部に染色体腕の3%以下のごく小さな断片として転座していることがわかっている。この染色体をT4B-4Ssh染色体と呼称する。このGc遺伝子の近傍にはヘテロクロマチン領域があり、反復配列pGc1-1と完全連鎖している。我々は、Gc2-4Ssh遺伝子のラフマッピングを終了し、同遺伝子が4B染色体長腕末端上のAe. sharonensis由来のクロマチン領域に座乗し、遺伝的に最近傍の2マーカーが定義する約15 cM のインターバルにマップされることを示した(吉岡ら、2016年日本育種学会第130回講演会)。15 cMは遺伝的な地図距離としては大きく、Gc遺伝子からまだ相当な物理距離があると想定されたが、実際には道祖なパンコムギの4B染色体の参照ゲノム配列では1.3 Mbpに相当し、相同なイネゲノムでは85の遺伝子しか存在しないことが判明した。我々の用いた分離集団ではAe. sharonensisの4S染色体とT4B-4Sshの異型接合となっていたためAe. sharonensisのクロマチン間で組換えを起こした配偶子が優先的に伝達したことを反映している。実際、マップ解像度は83 kb/cMとこれまで解析されたコムギ染色体の中でも最高の解像度を示していて、1 cMの距離にマップできれば物理的には100 kb程度で、ほぼBACライブラリーのクローン長に相当することがわかった。平成29年度の目標として、「染色体ランディングを可能にするよう、1 cM以下の距離にGc2-4Ssh遺伝子の最近傍マーカーを特定する」ことを掲げたが、トランスクリプトーム解析で得られた配列の解析から目的遺伝子と完全連鎖するマーカーを得て目的を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
トランスクリプトーム解析で得られた配列の解析が研究の進展位大きな貢献をした。具体的には、遺伝子が発現している組織から抽出した RNAの均質化ライブラリー配列、それに RNAseqによるカバレッジの高いショートリードの蓄積が有効であった。さらにクリティカルであったのは植物材料で、 EMS突然変異体のRNAseq解析が決定打を与えた。ドライの解析で、 コムギゲノムからではなくAe. sharonensisゲノムから発現している遺伝子を絞り込み、EMS突然変異系統でポイントミューテーションが入っている遺伝子を探り出し、最終的に1遺伝子まで絞り込むことに成功した。この遺伝子の遺伝学的マッピングの結果、表現型と完全に連鎖していた。この配列は公的データベースにある Ae. sharonensisのゲノムサーベイシーケンスに相同配列が一つだけ存在し、RNAseqによる推定配列とゲノム配列は完全に一致していた。その他のゲノム解析の定法に従って隣接配列の同定等を行い、推定プロモーター配列を含む候補遺伝子配列全長を得た。PCR増幅とサンガー方によるシーケンシングで配偶子致死系統の当該遺伝子のゲノム配列の特定も完了した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の目標として設定した「染色体ランディングを可能にするよう、1 cM以下の距離にGc2-4Ssh遺伝子の最近傍マーカーを特定する」ことを達成した。また、突然変異系統のRNAseq解析により、候補遺伝子を絞り込んだ。これらを受けて、平成30年度には候補遺伝子配列が目的の遺伝子であることを確認する研究に注力する。 具体的には、以下の4項目の研究を行う。 (1) Ae. sharonensis(Gc遺伝子を持つ4Ssh染色体のドナー野生2倍体系統)のBAC ライブラリー(構築済み)のスクリーニングを行い、ポジティブクローンの塩基配列決定と配列情報の解析を行う。BACの末端配列からマーカーを作成し、遺伝地図に乗せ、候補領域の全域をカバーするクローン(群)を同定する。(2) アグロバクテリウム形質転換法で易形質転換コムギ系統'Fielder'を形質転換し、T1及びその検定交雑後代の表現型調査(花粉形成の細胞学的観察、稔性調査)により候補配列がGc2-4Ssh遺伝子であることを証明する。(3) Gc遺伝子は配偶体で発現していると予想される。候補遺伝子の発現解析をコムギの各発育段階の諸組織(根端、初出葉、茎、幼穂、減数分裂期の葯、減数分裂後の葯)を材料にRT-PCRで調査する。さらに減数分裂期から花粉形成期の葯については、横断切片、縦断切片を作成し、候補遺伝子配列から作製したRNAプローブを用いたin situ hybridizationを行う。(4) 染色体切断とその抑制が転写レベルではなく翻訳以降のタンパク質相互作用を分子的基盤としている可能性が大いにある。Gc遺伝子を持つ花粉粒と持たない花粉粒におけるGc遺伝子の産物(タンパク質)の存在を間接免疫染色法で調査して明らかにするために、遺伝子産物のアミノ酸配列をもとにポリクローナル抗体を作成する。
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