育種においては、母本に用いる細胞質の由来に応じて、開花時期や耐病性などの様々な育種形質に影響が現れることが知られている。この現象には、核とオルガネラゲノムの相互作用、エピジェネティックなコミュニケーションが想定されているが、その実体は殆ど明らかではない。我々は、DNA脱メチル化制御に関与する細胞質の鉄・硫黄クラスター生合成経路をすでに明らかにしている。興味深いことに、この経路はミトコンドリア内膜のトランスポーターの機能に依存している。本研究計画では、イネをモデルにミトコンドリアに由来するエピジェネティック経路の詳細と育種形質への影響を明らかにし、将来の育種基盤技術創出に資することを目的としている。最終年度では、ミトコンドリア内膜に局在するトランスポーターOsATM3に着目し、本年度までにゲノム編集により作成した変異体osatm3を用いて、詳細な機能解析を実施した。同変異体は、ホモ接合の際には、胚乳において顕著な発生異常が生じる。中央細胞におけるATM3遺伝子の機能を知るためにosatm3ヘテロ接合体と日本晴野生型花粉を用いた交雑を行い、胚乳発生と予備的なRNA-seqによる遺伝子発現解析を行った。その結果、胚乳においては表現型に顕著な影響を与える訳ではないことが明らかとなった。一方のRNA-seq解析では、表現型と一致して発現変動は小さいながら、enrichment解析の結果、通常遺伝子の変動よりインプリント遺伝子の変動が有意に大きいことが観察された。今後、オスメス対立遺伝子を区別したさらなる詳細なRNA-seq解析を計画している。
|