イネ胚乳形成・登熟の分子機構を明らかにするため、イネ胚乳で発現する全遺伝子の発現制御ネットワーク構築を目的とする。胚乳における物質生産能は人類の食糧として、またバイオリアクターとして重要形質である。本研究ではイネ種子成熟における遺伝子発現制御の全容解明に向けて、遺伝子発現のトランス制御因子である転写因子による遺伝子発現制御ネットワークを明らかにする。これまでに864のイネ転写因子を小麦胚芽抽出液系で合成し、その転写因子が結合するゲノム断片を濃縮し、次世代シークエンサーで解析するDAP-seqを行った。その結果、332の転写因子について、イネゲノム上の50ヶ所以上に結合することを示すピークが検出され、約40%の成功率であった。全転写因子を統合すると約160万の領域に転写因子が結合し、イネゲノム上の136Mb(36%)は転写因子が結合し、遺伝子発現制御に関わりうる領域であることが明らかとなった。また、DNAメチル化が濃縮している領域で転写因子の結合イベント数が減少しており、DNAメチル化が転写因子の結合を 阻害していることを示唆している。 同じファミリーに属する転写因子が結合する領域は共通性が見られるが、それぞれユニークな領域にも結合していた。それぞれの転写因子のユニークな結合領域近傍には異なるGene Ontologyを持つ遺伝子が濃縮しており、同一ファミリーに属する転写因子間での機能分化が明らかとなった。これらのデータを統合することにより、転写因子間の発現制御ネットワークを予測することが可能となった。
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