研究課題/領域番号 |
17H03754
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
藤野 介延 北海道大学, 農学研究院, 准教授 (80229020)
|
研究分担者 |
津釜 大侑 北海道大学, 農学研究院, 助教 (10726061)
森下 敏和 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 次世代作物開発研究センター, 室長・調整監・技術支援センター長等 (30414949)
山田 哲也 北海道大学, 農学研究院, 講師 (70374618)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 果皮 / 裂莢性 / ダイズ / ダッタンソバ |
研究実績の概要 |
植物の種子の拡散や維持に深く関わっている組織の一つは、子房壁が発達した果皮である。作物にとって、植物が本来持つ種子を拡散させる能力は、収量や品質を著しく低下させ、輪作の栽培体系に於いては次年度の雑草発生の要因となる。 ダイズのように、近年の栽培体系の変化により今まで問題にならなかった裂莢性が新たに大きな問題となっている作物もある。ダイズの裂莢は乾燥にともなう莢の捻れ、ならびに、縫合線部分の細胞壁構造が主原因であると予想され、これらには主に莢のリグニン構造が大きく関与していると考えられる。裂莢性が異なるNILの莢ならびに形質転換体から、裂莢の難易に対し特異的に変化を示す物質の単離・精製を行い、得られた結果を基にPdh1遺伝子産物の代謝経路の特定を試みている。また新たにダイズ莢の乾燥時に捻れる部分と捻れない部分の形態観察から柔組織の厚さに違いが生じていることが判明した。柔組織の厚さは捻れに対し拮抗的に働くものと考えられ、柔組織の成分も解析が必要である。 ダッタンソバにおいては、果皮の裂開に差が生じる「満天きらり」と「ライスタイプ固定系統」の組織的観察では開花後8日目の「満天きらり」の果皮では、将来厚壁組織になる数層の柔組織が観察された。表皮下の数層の柔組織は、登熟に従い厚壁細胞へ発達しリグニンの蓄積が観察された。しかしながら「ライスタイプ」においては厚壁細胞への発達は見られなかった。開花時の子房において将来厚壁組織となる細胞層の分裂がみられないことからダッタンソバの果皮の発達はシロイヌナズナのものとは異なることが予想された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では果皮の裂莢・裂開機構を生理的に解析するため、ダイズでは裂莢性関連遺伝子Pdh1に関するNILを圃場・培養器にて栽培した。未熟な莢より重合が進んでいないリグニン関連物質などを抽出し、NIL間で比較したところ前年までにみられたクロマトグラフと異なり両者間で差がみられなかった。圃場での採取時期の違いや保存方法に問題があったものと考えられる。またPdh1を過剰発現させたタバコ培養細胞BY-2の形質転換体から粗酵素分画を抽出し、モノリグノールを基質として同一の代謝産物が検出されるか確認を行っている。 莢のリグニンの関与を調べるため、リグニン合成の初期段階に関与するPAL遺伝子の発現抑制を試みた。莢で特異的に発現するPdh1遺伝子プロモーターの下流にRNA干渉を起こすべくPAL遺伝子を配置したベクターを製作しているが予想外に時間がかかり、形質転換体の作成が遅れている。 ダイズ莢において、捻じれる部位と捻じれない部位が存在しその部分の形態を比較した。厚壁組織には有意な違いが見られなかったが、捻じれない部分の柔組織は捻じれる部分のそれより厚いことが判明した。柔組織は乾燥後硬化することにより捻じれる力に対し拮抗的に働くことが予想される。 「満天きらり」と「ライスタイプ固定系統」よりDNAの抽出を行い、全ゲノム解析を行った。また裂皮の要因となる厚壁組織の細胞層は開花時にすでに両系統間で差があることが確認されたため、開花時の両系統の花器からRNAを抽出しRNAseqを行った。現在シロイヌナズナの裂鞘に関与する遺伝子のオーソログについて発現解析を行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
ダイズの裂莢性の難易は乾燥にともなう莢の捻れならびに縫合線部分の細胞壁構造が主原因であると予想され、これには主に莢のリグニン構造が大きく関与していると考えられる。裂莢性が異なるNILの莢ならびに形質転換体から、裂莢の難易に対し特異的に変化を示す物質の単離・精製を行い、得られた結果を基にPdh1遺伝子産物の代謝経路を特定する。この推定される代謝経路をin vitroにおいて再現しPdh1の機能を解析する。現在継代中の35Sプロモーターの下流にPdh1遺伝子を組込んだタバコ培養細胞BY2よりPdh1の単離精製を行い、リグノールの酸化経路に対しPdh1を供試して、この代謝物(フェニルプロパノイド代謝物)をHPLC、GC/MS等を用いて確認する。これによりPdh1の生理機能の実体とダイズから得られた代謝産物の解析をまじえて、莢におけるフェニルプロパノイド代謝経路を明らかにする。 リグニン合成経路の初期段階に関与する遺伝子、ペクチン合成・分解に関与する遺伝子のノックダウンを行うよう、Pdh1のプロモーター領域の発現下においたRNAi用のベクターを構築し、形質転換体の作成を行う。 またダッタンソバにおいては、ライスタイプとそうでないものの開花時の花器官より総RNAを抽出し行ったRNAseqについて解析を行う。系統間で特異的に発現する遺伝子について、果皮形成時のより精細な遺伝子発現解析を行い、候補遺伝子の絞込みを行う。両系統の交配により作成したF1、F2後代に対し、得られた候補遺伝子についての遺伝解析を行い、得られた情報を基に最終的に遺伝子マーカーの作成を目指す。
|