植物の種子の拡散や維持に深く関わっている組織の一つは、子房壁が発達した果皮である。作物にとって、植物が本来持つ種子を拡散させる能力は、収量や品質を著しく低下させ、輪作の栽培体系に於いては次年度の雑草発生の要因となる。 ダッタンソバにおいては、果皮の裂開に差が生じる「満天きらり」と「ライスタイプ固定系統」の形態を比較した。「満天きらり」の果皮では、数層の細胞層が厚壁細胞へ発達し、開花後43日目にはリグニンの蓄積が観察された。「ライスタイプ」においてはこのような細胞層が一層のままで、薄い果皮が形成された。この二次細胞壁が発達する細胞層は開花時の子房において両系統間ですでに差があることが観察された。そこで開花時の雌蕊からRNAを抽出し網羅的発現解析を行った。RNAシークエンシングの結果、AGAMOUS オーソログ(FtAG)のmRNAが「ライスタイプ」において42塩基欠損していることが示された。この欠損は翻訳産物に14アミノ酸の欠損をもたらすものであった。ゲノム配列を調べた結果、当該欠損領域に隣接する 3’-スプライスアクセプター部位のGが「ライスタイプ」においてはAに置換されていることが明らかになった。従来品種と「ライスタイプ」の交配で得られたF2集団を用いて連鎖解析を行なった結果、「ライスタイプ」の子孫は全て当該部位においてAのホモの接合型を示していた。 「ライスタイプ」におけるFtAGの14アミノ酸の欠損は、自身やそのホモログとの複合体形成に関わるとされるKドメインに位置していた。このことから、ライスタイプの果皮の表現型はFtAGの複合体形成能の欠失により引き起こされていることが予想された。
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