研究課題/領域番号 |
17H03762
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柴田 道夫 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (80355718)
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研究分担者 |
樋口 洋平 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 講師 (00746844)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 園芸学 / 遺伝子 / 花型 / 頭状花序 / 八重咲き |
研究実績の概要 |
キクタニギクにおけるゲノム編集による遺伝子破壊法の確立では,キクタニギクで最も形質転換効率の高いNIFS-3系統を用い,アグロバクテリウムの系統LBA4404に,CYC2およびCクラス遺伝子などの花器官形成関連遺伝子をターゲットとし,ダブルあるいはクワドラップルノックアウト用で設計したpDeCas9_Kanベクターを組み込んだCRISPR/Cas9システムによる実験を進めている.これまでにCas9遺伝子が導入された形質転換体が多数得られてきているが,キクタニギクのCクラス遺伝子であるCsAG2およびCsM37の2つをターゲットとしたコンストラクトにおいて,CsAG2の一部で1塩基欠失が確認できたものの,ターゲット遺伝子の効率的な切断および表現型変異をともなった個体獲得には至っていない.キクタニギクにおける網羅的な遺伝子発現解析ではCsCYC2a,CsCYC2b,CsCYC2c1,CsCYC2c2,CsCYC2d,CsCYC2e,CsCYC2fの7種類のCYC2遺伝子および2種類のCクラス遺伝子を単離したほか,頭状花序発達にともなって発現が変動する遺伝子を多数特定することができている.また,CsCYC2c,CsCYC2d,CsCYC2eの3種類のCYC2遺伝子およびCsAG2,CsM37の2種類のCクラス遺伝子について時空間的な発現解析を行った結果,これらの遺伝子の小花および小花内の器官形成への関与は認められたものの,同じキク科植物であるノボロギクやヒマワリで報告されているようなCYC2遺伝子の直接的な舌状花形成への関与を示唆する結果は得られなかった.また,本年度,BiFC法によるタンパク質間相互作用解析に着手し,キクタニギクのBクラス遺伝子間での相互作用について確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では,キクの頭状花形成機構を明らかにするため,キクタニギクにおいてゲノム編集による遺伝子破壊法を確立し,花器官形成関連遺伝子の高精度な機能解析に取り組む.さらに,キクタニギクおよび多様な形態を示す栽培ギク小花における網羅的な遺伝子発現解析から候補遺伝子を抽出し,頭状花序発達段階における詳細な時空間的発現解析を行うと同時に,タンパク質間相互作用解析から花器官期間形成を制御する新規転写複合体を明らかにすることとしている. これまでにゲノム編集による遺伝子破壊法の確立に向けて,花器官形成関連遺伝子をターゲットとしたCRISPR/Cas9による実験を進めてきているが,一部で1遺伝子欠失の変異が確認できたものの,他の植物における報告例と比べて,その破壊効率はきわめて低く,不十分な結果にとどまっている.キクタニギク細胞内におけるCas9タンパク質の転写・翻訳やgRNAの転写の不足が原因と思われる.キクタニギクから単離された7種類のCYC2遺伝子の3種類について,舌状花と筒状花の発達段階における発現レベルの違いが認められたものの,筒状花においても小花の発達初期段階および雄ずい・雌ずいにおける発現が認められたことから,他のキク科植物で報告されているようなCYC2遺伝子のみでの舌状花化はキクタニギクでは当てはまらない可能性が高く,新たに単離された候補因子も含めBiFC法により,CYC2遺伝子およびABCEクラス遺伝子との相互作用を明らかにしていく必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
キクタニギクにおけるゲノム編集による遺伝子破壊法の確立では,Cas9タンパク質の転写・翻訳効率を改善するために,アグロバクテリウム系統をEHA105に変更,翻訳エンハンサーとHSPターミネーターをpDeCas9_Kanベクターに導入するとともに,gRNA転写効率を改善するために,これまでのAtU6プロモーターをAtU3プロモーターやキク内在性のCsU6プロモーターに変更する.また,カルス誘導培地における最適植物ホルモン濃度を検討し,培養期間を延長するなどして,改めて3種類のCYC2遺伝子および2種類のCクラス遺伝子等の花器官形成関連遺伝子の機能欠損変異体の作出および特性調査を行う.頭状花序形成に関与する候補遺伝子の探索については,これまでに3種類のCYC2遺伝子の小花形成および小花内の器官形成への関与は認められたものの ,当初期待されたCYC2遺伝子のみによる舌状花化については確認できなかったことから,新たに単離された候補因子も含めBiFC法によりCYC2遺伝子およびABCEクラス遺伝子との相互作用を明らかにするとともに,新規複合体による頭状花形成モデルを目指す.また,多様な舌状花の形態を示す栽培ギクについて,小花形成後期以降の小花の形態変化を調べることで多様な花型の成因について解析するとともに,古典ギク品種などの小花形成後における網羅的な遺伝子発現解析を行い,キクにおけるさらなる八重化の候補因子を探索する.なお得られた成果については園芸学会での発表を行う.
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