研究課題/領域番号 |
17H03764
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
山田 哲也 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (20422511)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 花の寿命 / 花弁老化 / アサガオ / ナショナルバイオリソース / RAD-Seq / ゲノムワイド関連解析 / コアコレクション / 窒素再転流 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、花の寿命決定遺伝子を同定するためのゲノムワイド関連解析(GWAS)に用いるアサガオ系統集団(コアコレクション)を選定し、それらを用いたGWASにより草丈に関わる既知遺伝子が検出されるかどうかを確認することで、選定したコアコレクションの有用性を評価した。具体的には、1)ナショナルバイオリソースプロジェクトで保存されている約1,000系統のアサガオから選出した400系統を網室内で栽培し、草丈、到花日数、総着花数などを調査した。2)RAD-Seq法で検出した400系統間の一塩基多型(SNP)情報を用いて系統樹解析を行い、遺伝的重複の少ない160系統をコアコレクションとして選定した。3)SNP情報を用いた主成分分析による集団構造解析から、コアコレクションには分集団化が見られないことを確認した。4)コアコレクションにおける草丈の系統間差異についてGWASを実施したところ、草丈の違いと高い関連を示す3つの候補SNP座を検出した。これらの座位の近傍には、他の植物で茎の伸長などへの関与が報告されている既知の草丈関連遺伝子のホモログが存在することを確認した。以上から、コアコレクションとして選定した160系統のアサガオがGWASにより花の寿命決定遺伝子を同定するための材料として適していることが示唆された。 アサガオ花弁について、窒素再転流に関わるグルタミン合成酵素遺伝子の転写産物量やグルタミンおよびアスパラギン含量の変化等を調査した。その結果、老化前後のアサガオ花弁では、転流形態窒素であるグルタミン等の合成が行われ、それらが花外への流出していることを確認した。また、転流形態窒素の合成にはオートファジーが関与し、イネの老化葉と同様の機構により窒素再転流が行われていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成29年度は、RAD-seq法で得たSNP情報に基づき400系統のアサガオから対立遺伝子の多様性が比較的高いレベルで維持されている100系統を選出し、それらをコアコレクションとしてGWASによる花の寿命決定遺伝子の同定を試みる予定であった。しかし、400系統のアサガオについて、ナショナルバイオリソース(アサガオ)から種子を入手する際の事務手続きや、RAD-Seq法による塩基配列の網羅的解読に予想よりも多くの時間を要し、アサガオ系統間でSNPを検出する時期が予定よりも大幅に遅れてしまった。また、アサガオ系統間で検出したSNP情報に基づき分子系統樹を作製し、その結果を参考にしてコアコレクションを選出する予定だったが、既存のデータ解析システムでは処理能力が不足し、系統樹を作製することが出来なかった。 平成30年度は、コアコレクションの選出と栽培、花冠面積のデジタル画像解析、GWASによる候補遺伝子の検出、QTL解析用の分離個体集団育成、RAD-Seq法によるSNP検出、QTL解析による対立遺伝子の同定などを行う予定であった。しかし、平成30年6月、コアコレクションを選出するための条件設定のために系統樹解析を行なった結果、当初予定していたSNP情報より新規公開された精度の高いゲノム参照配列で検出したSNP情報で系統樹解析しなければ、目的とするGWAS解析に適したコアコレクションを選出できないことが判明したため、3ヶ月の遅延が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、ゲノム参照配列の更新に伴い、SNP情報の再取得と、その情報に基づく系統樹解析およびコアコレクションの選出や評価を追加で実施する必要が生じたため、GWASやQTL解析による花の寿命決定遺伝子の同定には至らなかった。そこで、平成31年度は、GWASに関しては、実験担当者(研究補助)を増員し、所属機関内にある湿度制御が可能な大型の室内ファイトトロンを複数台使用してコアコレクションの栽培と形質調査を行い、解析に係る時間の短縮と精度の向上を図ることで、花の寿命決定に関わる遺伝子座の検出を早期に完了させる予定である。また、QTL解析については、CO2インキュベーターなどを用いて世代促進を図り、解析用の分離個体集団を短期間で育成するとともに、全ゲノム情報が既に取得されているアサガオ系統の中から花の寿命に顕著な差異がある組合せを選出し、それらのF2集団を用いてQTL-seq解析を行うことで、花の寿命決定に関わる遺伝子座の検出を早期に完了させる予定である。さらに、GWASやQTL-seq解析で検出された遺伝子座の中から花の寿命決定遺伝子を効率的に同定できるようにするため、開花や花弁老化が誘導される分子機構に関する解析を進め、より詳細な情報を得るとともに、候補遺伝子を破壊した系統をCRISPR/Cas9システムにより作出し、当該遺伝子の機能解析を行うための実験系の確立を推進する。
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