研究課題/領域番号 |
17H03768
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
杉山 慶太 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 北海道農業研究センター, グループ長 (30414767)
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研究分担者 |
志村 華子 北海道大学, 農学研究院, 講師 (20507230)
鈴木 卓 北海道大学, 農学研究院, 准教授 (30196836)
実山 豊 北海道大学, 農学研究院, 講師 (90322841)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 単為結実 / スイカ / ユウガオ / 花粉 / ホルモン |
研究実績の概要 |
ユウガオ花粉はIAA含量が高く、サイトカイニンとしてIsopentenyladenine(iP)が多いこと、また受粉後の子房内ではABAの働きが単為結実に関与している可能性が考えられた。そこで、これらのホルモンの着果効果を検討した。受粉後のスイカ雌花へのABA処理による着果の抑制効果はみられなかった。また、Ipのスイカ雌花への処理による着果効果は認められなかった。以上から、ABAやiPが単為結実に直接影響している可能性は低いと思われた。 受粉後のスイカ子房内の花粉管の動態を経時的に観察した結果、胚珠内への侵入はユウガオ花粉管の場合は起きないが、子房肥大はスイカ花粉受精時と同様に起きることが示された。その果実肥大の様子を細胞レベルで観察したところ、胎座における細胞肥大程度は、ユウガオ花粉はスイカ花粉に次ぐ肥大を示し、胎座における細胞径肥大が、ユウガオ花粉での単為結果の作用点となっている可能性が示唆された。 ユウガオ花粉の受粉後の子房内におけるユビキチン化タンパク質の解析により、オーキシンと関連しているタンパク質(Auxin responsive protein)が見出された。この物質が単為結実のキーとなっている可能性が考えられた。 無受粉スイカの子房、また、受粉後の子房を用いて、total RNAを抽出してRNAseqを行った。データ解析では、受粉36時間後、スイカ受粉とユウガオ受粉では無受粉に比べて遺伝子発現の変動が大きくなるが、スイカとユウガオでは異なる遺伝子が特異的に変動していることが分かった。また、受粉後48時間では、スイカで発現変動する遺伝子の多くはユウガオのものと共通していた一方で、ユウガオでのみ発現変動している遺伝子は比較的多く検出された。 本研究において、ウリ科作物間で互いの花粉あるいは一方の花粉が単為結実を行う現象が見られ、新たな知見として特筆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
花粉からの単為結実を誘導物質についてはホルモン以外にも検討する必要がある。花粉内及び雌蘂内のタンパク質についてもプロテオーム解析を実施しており、ユウガオの単為結実を誘導するタンパク質について検討中である。 子房内における花粉管表面の観察について、低真空SEMまたはCryo-SEM等を用いた経時観察には解決すべき問題があり進んでいない。一方、ユウガオ花粉を受粉した場合のスイカ子房では、スイカ花粉受粉区と同様の細胞肥大が胎座でのみ確認され、ユウガオ花粉での単為結果の理由が、胎座にあることが示され、解析する組織を絞り込むことができた。 ユウガオ花粉を受粉したスイカ子房のユビキチン化タンパク質の解析からオーキシンの転写抑制因子(Auxin responsive protein)の候補を見出すことができた。この物質を中心に単為結実との関係、花粉からの物質との関連について検討を進めている。 受粉後36時間において、ユウガオ受粉とスイカ受粉では、異なる遺伝子発現パターンがあらわれており、その後時間の経過とともに共通の遺伝子が発現する割合は高くなっていった。したがって、受粉36時間後には単為結実に関わる遺伝子経路と通常の受精・果実形成を起こす経路が分かれて動いており、ユウガオ受粉とスイカ受粉とでは異なる遺伝子発現およびシグナル伝達経路が果実肥大を誘導していることを示唆することができた。 まだ、現象を証明できる結果が得られていないため論文等の発表が無いが、研究の進捗としては概ね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
花粉からの単為結実誘導のシグナル物質については、タンパク質以外の物質も視野に分析を進める。具体的には、テルペン類なども解析を行い、ユウガオ特異的な物質を検索する。 これまで受粉後の子房内のオーキシン含量の変動が測定できなかったことから、IAAの検出方法の検討を行う。また、花粉管伸長中の花粉管周囲、および細胞の肥大が顕著に見られた胎座周辺について薄片切削切片のTOF-MS Imagingを試し、の予備実験として、受粉後子房での植物ホルモンなどの物質の局在について可視化試験を遂行する。 ユビキチン化タンパク質として見つかったAUX/IAAx(Auxin responsive protein)が単為結実の誘導と関連しているか検討を進める。 受粉後36時間や48時間において、ユウガオ花粉を受粉した子房で特異的に動いている遺伝子群が単為結実に大きく関わるのではないかと考えられる。これらのユウガオ特異的な遺伝子がどのような植物ホルモンやシグナル伝達経路に関わるのかをGO解析やpathway解析などを行って明らかにすることを計画する。また、候補遺伝子が選抜されたのちにはqRT-PCRによって発現変動の確認を行う。さらに今後、各々の遺伝子の果実形成への影響をみるためにはスイカにおける遺伝子発現制御系が必要となる。そのような系を確立する予備実験を行うことも計画する。
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