本研究はウイルスに対する植物免疫応答の分子メカニズムを明らかにすることを目的とする。ウイルスに対する植物免疫応答の作用点を特異的に同定するためには、ウイルスの感染を詳細なステップに分割し、それぞれの植物免疫応答がどのステップを阻害するかを検出することが必要である。令和2年度は、本研究のとりまとめに向けて、対象とするポテックスウイルス属内で最も被害の大きいウイルスのひとつであるpepino mosaic virus (PepMV)に対してレクチン抵抗性、劣性抵抗性を応用した感染阻害戦略について検証した。まず、実験植物Nicotiana benthamianaにおいて劣性抵抗性遺伝子EXA1を発現抑制した後に複数のポテックスウイルスを接種したところ、いずれも感染が阻害された。また、同様に近縁のlolavirusの感染も阻害された。そこで、トマトにおいてEXA1を発現抑制した後にPepMVを接種したところ、PepMVの感染が阻害されたことから、EXA1を介した劣性抵抗性によりPepMVの感染を抑制可能であることが示された。次いで、JAX1を高発現するN. benthamianaに複数のポテックスウイルスを接種したところ、いずれも感染が阻害された。そこで、トマトにJAX1を形質転換して高発現させ、PepMVを接種したところ、PepMVの感染が阻害されたことから、JAX1を介したレクチン抵抗性によりPepMVの感染を抑制可能であることが示された。以上より、本課題で研究を行ってきたレクチン抵抗性、劣性抵抗性はいずれも実用作物において問題となっている植物ウイルス感染阻害に応用可能であることを示した。
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