研究課題
トマト植物から抽出した細胞間隙液を用いて、走査電子顕微鏡観察にて、青枯病菌によるマッシュルーム型バイオフィルム(mBF)形成能を質量的に解析しうるモデル実験系を構築し、細胞間隙環境における青枯病菌によるmBF形成の時系列的解析を行ったところ、細胞間隙環境で培養12-16時間行うと、マイクロコロニーが形成された。マイクロコロニーのおおよそ1/3が、培養24時間で成熟したmBFに発達することが明らかとなった。そして、培養36時間後にはmBFの崩壊が認められ、浮遊型細菌細胞の放出が行われた。ラルフラノン化合物産生能喪失株(ΔralA)とラルフラノン化合物を用いたモデル実験系解析から、ラルフラノン化合物、とくに、ラルフラノンJとラルフラノンKがマイクロコロニーからマッシュルーム型バイオフィルムへの発達段階に関与していることが明らかとなった。さらに、lecM遺伝子変異株は、固相面への固着が行えず。マイクロコロニー形成を行うことができず、mBF形成に至らなかった。3-hydroxymyristate認知により起動するクオラムセンシング(phc QS)のmBF形成への関与について解析を行ったところ、phc QSは、マイクロコロニー形成を抑制していた。一方、ラルフラノン化合物、とくにラルフラノンJとラルフラノンKは、その作用を阻害していることが明らかとなった。以上の結果から、細胞間隙環境におけるmBF形成は、一般的に、細菌で言われている細菌細胞の凝集によるバイオフィルムとは形態的かつ機能的に異なる青枯病菌の細胞集団構造物であり、その形成には、ラルフラノン化合物とLecM、およびそれらの産生の誘導に関わるphc QSが統合的に関与していると推察された。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度の研究計画は、「mBF の形成過程の時系列的解析」と「RS-IIL とラルフラノン化合物のmBF 形成における役割の解析」による「RS-IIL とラルフラノンのmBF 形成における役割の細胞集団構造学的解明」とともに、「RS-IIL を介したmBF 形成に関わるシグナル伝達系の解明」について「RS-IIL により発現が制御されるmBF 形成に関わる転写制御因子遺伝子ライブラリーの構築」、および「ラルフラノン化合物受容を介したmBF 形成に関わるシグナル伝達系の解明」について「ラルフラノン化合物の受容システムの解明」を行うことである。「ラルフラノン化合物の受容システムの解明」については、青枯病菌OE1-1株のゲノム解析からセンサーカイネースをコードしていると推定された44個のセンサーカイネース遺伝子それぞれの欠損株の作製を終了している。そのため、それぞれの項目について、omics解析を行うとともに、生化学解析、さらには、モデル系を用いた走査電子顕微鏡による時系列観察により、青枯病菌細胞の集団構造物mBF形成に関わるシグナル伝達系を解明する糸口をつかんだと言える。
平成30年度は、「RS-IIL を介したmBF 形成に関わるシグナル伝達系の解明」を目標に、「LecM によるmBF 形成に関わる遺伝子発現制御系の解明」について、RS-mBF 菌株インベントリー各菌株のトランスクリプトーム解析をRNA-seq 法を用いて行い、RS-IIL によるRS ライブラリー各遺伝子の発現制御を解明する。さらに、「RS-IIL を介して産生が誘導されるメタボロームライブラリーの構築」について、トマト細胞間隙液で培養したOE1-1 株、lecM変異株およびRS-mBF 菌株インベントリーの菌株と、組み換えRS-IIL を加用して培養したlecM 変異株のメタボローム解析を行い、RS-IIL によって産生が制御される二次代謝物質のRS メタボロームライブラリーを構築する。そして、「RS-IIL を介したmBF 形成に関わるシグナル伝達系の構築」を行い、これらの結果を総括した成果を基に、in silico 解析を行い、RS-IIL を介したmBF 形成に関わるシグナル伝達系を構築する。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 2件)
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