ブドウ根頭がんしゅ病は病原細菌Rhizobium vitis Ti株が引き起こす植物病害である。本菌は土壌に生息するため化学農薬による防除が困難であり、ブドウ栽培は世界規模で甚大な被害を被っている。このような難防除土壌病害を抑制する手段の一つがバイオコントロール法である代表者はブドウ根圏から病原菌を分離・調査する過程において、ブドウ根頭がんしゅ病を抑制する活性をもつ拮抗細菌Rhizobium vitis VAR03-1株を単離した。本菌はTi株と同属で、ブドウへの定着能を持つが、病原性関連遺伝子が座乗するTiプラスミドは持たない。 VAR03-1株の拮抗活性を司る遺伝子を同定するため、トランスポゾンランダムミュータジェネシスで作出した変異株の中から、Ti株への増殖抑制能を喪失した4株を得た。これらのうち、3株のトランスポゾンはphage tail fiber遺伝子に、1株はその近傍の遺伝子に挿入していた。次に、当該ゲノム領域を明らかにするため、Ti株、VAT03-1株、非病原性かつ非拮抗性であるR. vitis VAR06-30株の全ゲノムを決定した。これら3株と欧州の同族病原菌S4株のゲノム比較解析から、当該領域は全リゾビウム菌株が共通に持つプロファージに相当することが明らかになった。しかし、VAR03-1株のそれだけは一端が別のファージゲノムと融合しており、その結果ヘッドをコードする遺伝子群が欠失していた。VAR03-1株の当該ファージ様遺伝子群は紫外線照射によって全域が発現誘導され、それと一致して培地上清の拮抗活性も増高した。また、遺伝子破壊実験により、拮抗活性に必要となる当該ファージ領域の全長を決定した。以上の結果、拮抗能の実体はヘッドを欠いた筒状のファージ様粒子であるテイロシン(近縁種に対する抗菌性物質であるバクテリオシンの一種)と考えられた。
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