研究課題
I. 菌根菌のリン吸収画分の同定酸性硫酸塩土壌および国頭マージの二種類の酸性土壌を用い、ナイロンメッシュ区画栽培法により耐酸性AM菌Rhizophagus clarus RF1株を接種したミヤコグサを7週間栽培した。その後、菌糸画分の土壌をヘドレー法により水溶性、有効態および難溶性画分に分画し、それぞれに含まれる無機および有機態リン酸含量を測定した。菌根菌の吸収によるリンの減少は、国頭マージにおいては観察されなかったのに対し、酸性硫酸塩土壌では水溶性および有効態の無機リン酸、および難溶性画分の有機態リン酸の減少が認められた。II. 菌根菌耐酸性遺伝子のスクリーニング酸性硫酸塩土壌のpHを3.4 - 5.2の範囲で4段階に調整した土壌を用い、ナイロンメッシュ区画栽培法によりRF1株を接種したミヤコグサを7週間栽培した。その後、それぞれのpH区から採取したAM菌の外生菌糸からRNAを抽出し、比較トランスクリプトーム解析に供試した。pHの低下に伴って直線的に発現上昇する遺伝子群を抽出したところ、酵母や植物において耐酸性に関わることが報告されている種々の遺伝子のオーソログが含まれていた。それら遺伝子の中から、原形質膜型マグネシウム輸送体の遺伝子をクローニングし、酵母において形質転換体を作出したが、その耐酸性は野生型とほぼ同等であった。III. 共生ウイルスの耐酸性における役割前項と同様の方法でミヤコグサを栽培し、外生菌糸からRNAを抽出した。R. clarusの地理的隔離株3株が共通して保持しているR. clarus Mitovirus3 (RcMV3) およびRF1株のみが保持しているRcMV1の存在量をRNA-SeqおよびqRT-PCRで調べたところ、RcMV1の存在量は土壌酸性度に関わりなく一定であったのに対し、RcMV3の存在量はpHの低下に伴って有意に増加していた。
2: おおむね順調に進展している
「菌根菌のリン吸収画分の同定」については、水溶性および有効態の無機リン酸は植物にとっても利用性の高い画分であることが知られているが、AM菌が難溶性画分の有機態リン酸を利用する能力を有することについては、本研究で初めて明らかにされた。「菌根菌耐酸性遺伝子のスクリーニング」については、本アプローチが耐酸性遺伝子群を抽出する方法として妥当であることが示された。「共生ウイルスの耐酸性における役割」については、酸性土壌がRcMV3に対して正の選択圧として働くこと突き止め、これが酸性土壌から分離された3株の地理的隔離株が共通して保持している理由であることを示した点で重要な進展があった。
「菌根菌のリン吸収画分の同定」については、「菌根菌耐酸性遺伝子のスクリーニング」の基礎データを得るという当初の目的を達成したため、再現性を確認後、論文発表に進む。「菌根菌耐酸性遺伝子のスクリーニング」については、遺伝子共発現ネットワーク解析により、低pHにおいて協働する遺伝子セット(モジュール)を特定し、それらの中で中心的な役割を果たす転写因子や鍵酵素/輸送体の同定を試みる。「共生ウイルスの耐酸性における役割」については、R. clarusの他の地理的隔離株におけるRcMV3のpH応答を調べると共に、他の耐酸性株からもさらにウイルスの検索を行う。
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New Phytologist
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10.1111/nph.15187