研究課題
リン酸質肥料の原料は涸渇に瀕しており、持続的な食料生産のためには低リン環境で生育可能な「低リン超耐性植物」の耐性を理解し、そのしくみを活用する必要がある。マメ科ルピナス属やヤマモガシ科等の低リン超耐性植物は、クラスター根を形成して適応するが、低リン環境でのクラスター根形成や有機酸分泌など機能発現のしくみの多くは未解明である。本研究はクラスター根の形成や機能発現のしくみを明らかにするとともに、低リン超耐性植物の農業利用の可能性および生態学的機能について追究することを目的とする。今年度は、主に以下の研究を実施した。シロバナルーピンの3品種(Kievskij, Energy, Luxor)を用いてリンを与えた+P区、与えない-P区で水耕栽培を行ったところ、品種間でクラスター根の形成能に違いが現れ、Kievskijで最も形成数が多く、Luxorで最も少なかった。また、-P区における地上部の生育がKievskijで最も大きかった。以上のことから、Kievskijの低リン耐性が最も高く、クラスター根の機能がこれに寄与している可能性が示唆された。リン吸着能の低い土壌をお用いてシロバナルーピンをトウモロコシと混植させた場合に、単植と比較して35%程度のリン酸質肥料削減効果があることが示唆された。シロバナルーピンを材料として根圏の微生物群集構造解析を行ったところ、リン栄養特異的に微生物群集構造が変化することが明らかとなった。ヤマモガシのクラスター根共有により、ヒ素、マンガン、アルミニウムの吸収が高まることが示唆された。また、ヤマモガシのクラスター根はこれまでに調査した中で最も有機酸分泌能が高い植物の一つであることが明らかとなったが、酸性ホスファターゼの活性は分泌型よりも根の表面に分布するものが多いことが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
本研究の成果として、複数の関連論文の投稿、学会における発表につながっており、順調に進展していると判断している。
研究分担者との連携を深めつつさらに研究を進展させる考えである。また、本研究を基課題として、科学研究費補助金(国際共同研究加速)が採択されたため、国際共同研究の枠組みを構築しつつ研究推進を行う考えである。具体的な研究方策は以下のとおりである。シロバナルーピンおよびヤマモガシのクラスター根と通常根を対象にRNA-seq解析を行い、クラスター根で特異的に発現する遺伝子の抽出を行う。ヤマモガシの試料から有機酸トランスポーター候補を抽出し、機能解析に着手する(分担者の西田と共同)。これまでに実施したメタボローム解析をもとに、シロバナルーピンの品種間差に基づく比較メタボローム解析を実施する(分担者の俵谷と共同)。これまでに単離した有機酸トランスポーター候補についての解析を実施する(分担者の丸山、佐々木と共同)。クラスター根圏を共有させて栽培した異種植物とクラスター根を形成するヤマモガシやシロバナルーピンの間で、リンを含む他元素一斉分析を行う(分担者の渡部と共同)。ヤマモガシを対象として、根圏のメタゲノム解析を行う。ヤマモガシについては周辺植生についてのタキソノーム解析を行いつつ、その周辺植物におけるクラスター根の形成能について調査を行う(分担者の坪田と共同)。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 6件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 6件、 招待講演 3件) 図書 (2件)
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