研究課題
本研究は,植物と真菌の共生である菌根において、炭素、窒素、水素の共生者間-組織内輸送および環境との循環を、細胞小器官レベルでの局在解析手法を中心に明らかにすることを目的としている。課題Ⅰ「表面分析法における試料調整法の影響評価」では,凍結試料を用いた安定同位体トレーサーの二次イオン質量分析法(SIMS)の開発に取り組んだ。高真空装置で凍結試料を測定するために,試料側として凍結法,表面作成法など,また,機械的には試料輸送・導入法,凍結ステージの開発,さらに測定法などの検討を行った。同位体で標識した菌根組織を用い,凍結試料からの同位体画像の取得に成功した。生細胞における安定同位体測定法の検討では,細胞内の同位体標識リン酸を与えた真菌液胞内のポリリン酸の動態・分布を顕微ラマン散乱の手法を用いて明らかにすることを目指し,測定手法の確立に取り組んだ。課題Ⅱ「同位体分子情報」では,ランの共生発芽プロトコームにおける窒素化合物の輸送について,13Cと15Nで標識されたアルギニン,酢酸,重水などによる多重標識を行い,有機・無機態窒素ともに輸送される可能性を明らかにした。また,アーバスキュラー菌根において,加圧凍結―凍結置換法を用いた輸送物質の推定について検討を行った。課題Ⅲ「物質輸送と循環」では,アーバスキュラー菌根における物質輸送を,同位体トレーサーの微細構造局在解析により明らかにするため,同一試料を用いた透過型電子顕微鏡-SIMS法解析法を確立した。また,アーバスキュラー菌根における水輸送を解析するため,菌糸のみにトレーサーを与える培養系の検討を行った。土壌生態系における元素循環では温度ストレスを与えた土壌中の菌糸圏微生物の動態解析法が確立し,特徴的な微生物群を見出した。
2: おおむね順調に進展している
課題Ⅰの凍結SIMS分析法について,凍結分析面作製-凍結試料輸送-SIMS凍結測定の主要な工程がほぼ確立し,大きく進展した。また,データ取得の成否に関わる問題点を絞り込んだ。ラマン分光法では,対象スペクトルの観察に用いる支持基板の検討,同位体標識された試薬を用いラマンスペクトルのシフトを検出し,液胞内ポリリン酸の観察モデル系として酵母を用いた生体分析の検討に進んでいる。課題Ⅱでは,ランの共生系における窒素分子輸送について結果が得られたことから大きく進展した。また,菌に与えた酢酸およびアルギニン由来の炭素が植物細胞に渡された後,異なる構造に集積することなど,新規の情報が得られた。課題Ⅲでは,菌根における同位体トレーサーの微細構造レベルでの局在解析が,生態系内循環解析では温度ストレスをかけた土壌中の菌糸圏微生物変動解析が,それぞれ進んだ。アーバスキュラー菌根の菌糸ラベルのための培養法についてはほぼ確立した。
課題Ⅰにおいては,測定用試料の作成法の検討を進め,データ取得の良否および安定性,また対応する構造情報の取得の問題に取り組む。ラマン分光においては,生体試料の特徴による問題回避のために必要であれば,できるだけ生体に近い状態での細胞試料内のポリリン酸測定を目指す。課題Ⅱにおいては,凍結置換法による分子種の推定の解析を進めるとともに,ToF-SIMS法による測定について検討する。課題Ⅲではアーバスキュラー菌根の微細構造レベルの炭素輸送の解析を進める。また,新培養系を用い,窒素および水素輸送の解析のためのラベル法の検討に着手する。元素循環解析では,菌糸圏で起こる土壌微生物群集変動の起点について,遺伝子発現解析から絞り込みを行う。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 11件、 査読あり 13件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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