研究課題/領域番号 |
17H03784
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
久我 ゆかり 広島大学, 統合生命科学研究科(総), 教授 (30232747)
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研究分担者 |
坂本 直哉 北海道大学, 創成研究機構, 助教 (30466429)
勝山 千恵 広島大学, 統合生命科学研究科(総), 助教 (10580061)
青柳 里果 成蹊大学, 理工学部, 教授 (20339683)
長谷川 巧 広島大学, 総合科学研究科, 助教 (20508171)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 菌根 / 安定同位体トレーサー / SIMS / 凍結法 / 微細構造 / 菌糸圏土壌微生物 |
研究実績の概要 |
本研究は,植物と真菌の共生である菌根において、炭素、窒素、水素の共生者間-組織内輸送および環境との循環を、細胞小器官レベルでの局在解析手法を中心に明らかにすることを目的としている。 課題Ⅰ「表面分析法における試料調整法の影響評価」では,樹脂切片試料の分析とともに,凍結試料を用いた安定同位体トレーサーの二次イオン質量分析法(SIMS)の開発に引き続き取り組んだ。高真空装置で凍結試料を測定するためには,試料側の凍結法,表面作成法,また,機械的な試料輸送・導入法,凍結ステージの開発が必要である。令和元年度は凍結面導電性の検討とともに凍結試料作製法を抜本的に改定し,凍結微細構造観察とクライオSIMS解析の相関解析法について構築した。 課題Ⅱ「同位体分子情報」では,アーバスキュラー菌根共生における樹脂切片を用いたTOF-SIMS法による解析を進めた。さらに,推定分子である脂質および糖質の解析のため,ペチュニアのアーバスキュラー菌根共生変異体を用いた13Cの微細構造局在解析を進めた。この解析では走査型電子顕微鏡-同位体顕微鏡相関解析法を構築した。 課題Ⅲ「物質輸送と循環」では,アーバスキュラー菌根共生における炭素と窒素の輸送について,同位体ラベル-透過型電子顕微鏡-nanoSIMS法の相関解析により,植物,アーバスキュラー菌根菌,さらに菌根菌内生細菌における分配について解析した。また,同菌根における水輸送を解析するため,菌糸のみにトレーサーを与える個別ラベルシステムを構築し,経時解析およびD2Oの輸送・循環解析を進めた。またアーバスキュラー菌根菌胞子の18S rRNA遺伝子,さらに同菌内生細菌の16S rRNA遺伝子の解析を行った。また次世代シークエンサーを用いた網羅的群集構造解析により病原および共生真菌に特徴的な微生物群集が発達することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題Ⅰの凍結SIMS分析法において,試料作製の戦略を大きく変え,生命科学でもっとも信頼できる加圧凍結法を起点とし,極低温下での共生微細構造情報の取得に成功した。さらに極低温金蒸着-クライオSIMSによる相関解析直前までの工程が確立している。課題Ⅰについては当初の計画以上の進展があった。 課題Ⅱでは,アーバスキュラー菌根における宿主からの輸送分子として推定されている脂質や糖質分析として,TOF-SIMS法による解析に着手し,多量データから細胞構造と連関したデータを抽出する統計解析法を構築し,分析が進んでいる。さらに,アーバスキュラー菌根共生の変異体を用い,SEMおよび同位体顕微鏡による相関解析法を構築し,13Cの集積と代謝欠損による細胞内構造変異データの解析が進んでいる。課題Ⅱについては予定通り進展している。 課題Ⅲでは,アーバスキュラー菌根において,菌糸のみに液体試薬ラベルが可能なチャンバーが完成し,宿主が固定した13Cおよび共生菌由来15NおよびD2O輸送および交換について,同位体の局在とガス濃度の経時的解析が進んでいる。D2Oの検出感度に課題はあるが、密閉容器の気相のD2OがGC/MSで検出可能であることを示した。アーバスキュラー菌根菌遺伝子多型,継代菌株間での同多型パターンの変動,また菌根菌の菌株内内生細菌の種数および系統内での存在比率の相違など,菌糸の内環境の解析が進み,さらに外環境の網羅的群集構造解析により菌糸圏に特徴的な微生物群の存在が示された。課題Ⅲは複雑系解析であり進捗が遅れている部分もあるが,ほぼ予定通り通りに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
課題Ⅰ(表面分析法における試料調整法の影響評価)においては,クライオ微細構造観察した試料を用い,現在新型コロナウイルスによる規制により停止しているSIMS相関解析法を実施する。さらに,これら解析を受け,加圧凍結(無包埋),凍結置換-樹脂包埋,および化学固定-樹脂包埋の3つの手法における,ラベルの局在,同位体比の強度等比較する。顕微ラマン分光では18Oラベルポリリン酸計測法の検討のため,凍結乾燥後樹脂包埋した酵母細胞をモデルとし解析を行う。 課題Ⅱ(同位体分子情報)においては,ラン共生プロトコームを用い,一原子標識化合物(グリシン2-13C ,酢酸1-13C,パルミチン酸ナトリウム1-13C)をトレーサーとしたSIMSによる局在解析を進める。同位体ラベルしたアーバスキュラー菌根樹脂切片のTOF-SIMS解析において,有効性が示されたLASSO法などを用い,引き続き,脂質および糖質について局在解析を行う。またペチュニアのアーバスキュラー菌根変異体3種類を用いた解析を進める。 課題Ⅲ(物質輸送と循環)では,アーバスキュラー菌根植物への13CO2および外生菌糸への15NH4ラベル,樹脂切片を用いたTEM-nanoSIMS法による同位体の微細構造レベルでの局在解析を進める。アーバスキュラー菌根ではさらに個別ラベルシステムを用いたGCMSによる気相,特にD2O由来の気体解析を進め,さらにアブラムシ法による篩管液測定法に着手する。また,外生菌根系での窒素輸送解析に着手する。
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