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2017 年度 実績報告書

糸状菌の界面での生物機能を支える界面活性タンパク質の分子機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 17H03787
研究機関東北大学

研究代表者

阿部 敬悦  東北大学, 農学研究科, 教授 (50312624)

研究分担者 藪 浩  東北大学, 材料科学高等研究所, 准教授 (40396255)
研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワード応用微生物学 / 微生物機能 / 糸状菌 / 界面活性
研究実績の概要

動植物感染を含め、糸状菌は固体高分子を分解して地球規模の物質循環に寄与する。固体に生育する糸状菌は、界面活性タンパク質Hydrophobin(HP)を分泌する。HPは細胞壁多糖に結合・自己組織化して細胞表層を被覆し、糸状菌と固体又は空気界面を形成して標的接着に機能する。HP-多糖複合体は感染宿主からの認識回避で感染成立にも機能する。またHPは固体表面に結合した後に分解酵素をリクルートして固体分解を促進する。HPは固体表面に結合して界面で生物機能を示すが、HPの固体表面への結合・自己組織化過程は不明である。本研究では生化学と界面化学の手法を融合させ、様々な化学構造の固体表面を作製して、表面へのHPの結合・自己組織化過程、自己組織化HPと酵素の相互作用過程を可視化・定量化して、その分子機構モデルを構築する。本年度は、分子間相互作用解析装置である水晶発振子マイクロバランス(QCM)装置を用いて、疎水性・親水性(アミノ基、カルボキシ基)官能基を末端に有する自己組織化単分子膜(Self Assembled Monolayer: SAM)形成試薬で表面修飾したQCM電極に麹菌由来の精製HPであるRolAの吸着させて、吸着過程をpH4, 7, 10で解析した。結果、RolAの等電点に近いpH4ではどの表面でも吸着量が多く、吸着量はpH4>pH7>pH10であった。特にカルボキシル化表面では、pH10ではRolAとの静電反発もあって殆ど吸着しなかった。AFMで吸着構造を観察すると、疎水面のpH4、pH7で棒状構造が多く観察された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

【課題1】化学構造の異なる表面へのHPの吸着・自己組織化の生化学的解明
HPのモデル分子として既に精製法を確立した麹菌(Aspergillus oryzae)のRolAを用いで、疎水性・親水性(アミノ基、カルボキシ基)官能基を末端に有するSAM化QCM電極表面へのRolA吸着過程の動力学的パラメーター(KD値等)を決定した。QCM電極表面のSAM化の均一性を純水液滴の接触角測定とAFM観察により確認した後、SAM化QCM電極を用いて表面へのRolAの吸着をpH4, 7, 10で動力学的に解析した。その結果、RolA の固体表面への親和性は、固体表面の性質ではなく、溶液の pH, つまり溶液中の RolA の状態に依存し、RolA の等電点(pI = 4.8)に近いほど、親和性が増加した。各表面に対して、疎水的相互作用と親水的相互作用両方で吸着することが予想された。
【課題2】HPが各種表面で形成する自己組織化構造の表面化学的解明
課題1の終了後にRolAを生産用の5L糸状菌ジャー培養槽が破損し、新規培養槽の導入のため5か月間培養槽入れ替えに要したことから、課題2の実施が遅れたが、その間、平滑基盤の課題マイカとシリコンの表面改質準備を行って、平成30年4月よりSAM化QCM電極上の吸着RolAのAFM解析を再開した。課題1ではpH、RolA吸着量を変化させてSAM化電極へのRolA吸着を定量的に解析するが、課題2ではRolA吸着量の異なる電極表面をAFMで観察し、RolAの自己組織化過程を可視化した。SAM化表面へのRolA吸着前後で、水液滴の接触角測定を行ってRolAによる表面改質も調べた。自己組織化構造は、アモルファス状の薄膜から始まり、吸着量が増える従って球状構造が形成され、急激な二次吸着に伴い棒状構造が形成された。疎水面では棒状構造が形成されると接触角が低下し親水化し、逆に親水面ではRolAの吸着に従って接触角が上昇して疎水化した

今後の研究の推進方策

平成29年10月にRolAの量産を行っていた5Lジャー培養槽が故障し修理不能となったため、平成29年11月にジャー培養槽を急遽発注した。その間、QCM電極のSAM化の制御やより平滑なマイカ基盤、シリコン基板のSAM化反応の検討を行った。平成30年4月にジャー培養槽が新設されRolAの生産が再開できた。その結果、平成30年8月までに平成29年度の計画を実施できた。SAM化QCM電極を用いたRolA吸着過程の動力学的解析および吸着により形成されるRolAの自己組織化データがまとまったので、現在論文作成中である。界面活性分子であるRolAは、溶液中のRolA分子の一部が気液界面に配向すると考えられる。そこで気液界面に配向したRolA分子を水平方向に圧縮して緻密な凝固単分子膜(Langmuir膜;L膜)が形成されたところで固体基盤に写し取り、基盤表面をAFMで観察する。平成30年5月以降はマイカ基盤および疎水化シリコン基板を用いて、L膜のAFM観察を実施する予定である。培養槽の故障入れ替えにより遅れを生じたが、平成30年9月以降は、平滑マイカ基盤および疎水化シリコン基板を用いたRolAのL膜の作製とそのAFM観察を実施する。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2018 2017 その他

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Asp30 of Aspergillus oryzae cutinase CutL1 is involved in the ionic interaction with fungal hydrophobin RolA.2017

    • 著者名/発表者名
      84.Terauchi Y., Kim Y-K.., Tanaka T., Nanatani K., Takahashi T., and K. Abe*
    • 雑誌名

      Biosci. Biotech. Biochem.

      巻: 81 ページ: 1363-1368

    • DOI

      10.1080/09168451.2017.1321952

    • 査読あり
  • [学会発表] 麹菌由来界面活性タンパク質 hydrophobin RolA の液中における単量体 ・多量体の性質と挙動2018

    • 著者名/発表者名
      大沢千晶、田中拓未、七谷圭、吉見啓、阿部敬悦
    • 学会等名
      日本農芸化学会 2018 年度大会
  • [学会発表] Asp30 and Asp73 of Aspergillus oryzae cutinase CutL1 are involved in the ionic interaction with fungal hydrophobin RolA.2018

    • 著者名/発表者名
      Terauchi Y., Yoon-Kyung K., Tanaka T., Nanatani K., Yoshimi A., Takahashi T., K. Abe
    • 学会等名
      14th European Conference on Fungal Genetics,
  • [学会発表] 生分解性プラスチックの分解に関するエステラーゼと界面活性足場タンパク質の協同による分解促進機構2017

    • 著者名/発表者名
      阿部敬悦
    • 学会等名
      2017年度日本生物工学会北日本支部シンポジウム
    • 招待講演
  • [学会発表] 麹菌界面活性タンパク質hydrophobin RolA と cutinase CutL1 間の相互作用に関与する CutL1 側新奇相互作用部位D302017

    • 著者名/発表者名
      寺内裕貴、金允卿、田中拓未、七谷圭、吉見啓、高橋徹、阿部敬悦
    • 学会等名
      2017年度日本生物工学会北日本支部シンポジウム
  • [備考] 応用微生物学分野研究室

    • URL

      http://www.agri.tohoku.ac.jp/microbio/index-j.html

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公開日: 2019-12-27  

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