固体に生育する糸状菌は、界面活性タンパク質Hydrophobin(HP)を分泌する。HPは固体表面に結合した後に分解酵素をリクルートして固体分解を促進する。本研究では麹菌由来HPであるRolAを用いて生化学と界面化学の手法を融合させ、親水・疎水の固体表面を作製して、表面へのHPの結合・自己組織化過程、自己組織化HPと酵素の相互作用過程を可視化・定量化して、その分子機構モデルを構築する。本研究では以下の3課題を実施した。 【課題1】化学構造の異なる表面へのHPの吸着・自己組織化の生化学的解明~前年度で完了して論文投稿後改訂中。 【課題2】HPが各種表面で形成する自己組織化構造の表面化学的解明~RolA単分子膜(Langmuir膜)の作製とその自己組織化構造の解析:前年度、気液界面に配向したRolA分子を水平方向に圧縮して形成される緻密な凝固単分子膜(Langmuir膜;L膜)を親水化及び疎水化改質Si基板に転写し、基板表面上のL膜をAFMで観察する解析系を確立した。本年度の解析で、RolA が気液界面において2段階の相転移の後、自己組織化構造のL膜を形成することを明らかにした。親水性基板表面(界面気相側)ではRolA L 膜が棒状自己組織化構造を形成し、疎水性基板表面(界面水相側)ではRolAミセルが重なる複層膜構造であることを明らかにした。RolA の自己組織化にはイオン的相互作用は働いておらず、水素結合や疎水的相互作用が重要であることも示唆された。 【課題3】HP自己組織化膜への高分子分解酵素リクルート分子機構の可視化~課題2で作製した疎水化および親水化Si基板表面に形成したRolA L膜に対してCutL1を作用させて、RolA L膜の親水面および疎水面へのCutL1の吸着をCutl1活性および抗体で検出することに成功し、現在、AFMでの観察を行っている。
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