研究課題
バクテリアの生死はコロニー形成能で定義されてきたが,近年天然の細菌の多くは生きていてもコロニーを作らない状態にあることが判り,改めて生物現象としてコロニー形成を理解する必要がある。(1)不飽和脂肪酸の重要性:大腸菌のコロニー形成欠損変異株を分離し,脂肪酸の供給が不足すると液体培養に比して固体培養での増殖が損なわれ,コロニー形成頻度が低下することを発見した。脂肪酸合成の縮合酵素FabBを欠く変異株のコロニー形成には,不飽和脂肪酸のパルミトレイン酸,オレイン酸,リノール酸,リノレン酸が有効で,カプリン酸からステアリン酸に至る中-長鎖飽和脂肪酸,更にtrans不飽和結合nのエライジン酸も不可であった。大腸菌野生株の脂肪酸合成を薬剤で抑えても液体培養に比してコロニー形成が抑えられるが,グラム陽性の表皮ブドウ球菌でも同様で一般性が認められた。(2)低温飢餓でコロニー形成が低下する原因:飢餓ストレスでコロニー形成頻度が低下するVBNC現象の原因として,コロニー形成に必要な生理機能が減弱する以外に,増殖を積極的に止める休眠機構が存在しcAMP-CRPがそのスイッチであることを見出した。VBNC現象は,抗生物質に対し一過的耐性になるパーシステンスとの類似性があり,cAMP-CRPがパーシステンスを誘導するか検討中である。(3)タンパク質合成を止めるトキシンの機構:大腸菌表層に結合後プロセスされて細胞内に侵入し,tRNA(Arg)を切断してタンパク質合成を止め細胞を静菌的に殺すコリシンDの,tRNA分子認識機構を解明した。今まで切断で基質tRNAが枯渇しタンパク質合成が止まると理解されてきたが,基質と切断断片の細胞内量と増殖への影響を定量的に分析し,tRNAの枯渇ではなく切断断片が,tRNAを運ぶEF-TuでボソームA部位まで運ばれ,ドミナントネガティブ的にリボソームを阻害することを示した。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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RNA Biology
巻: 18 ページ: 1193-1205
10.1080/15476286.2020.1838782