研究課題
高濃度エタノールストレスやバニリンなどの醸造・発酵関連ストレスによる翻訳抑制下で誘導される、優先的翻訳のメカニズム解明を目指して、酵母Saccharomyces cerevisiaeを用いて研究を実施した。まず、エタノールによる翻訳抑制下で、BTN2 mRNAの優先的な翻訳・発現が行われる分子機構の解析を行った。その結果、RNA結合タンパク質で あるRbp26や分子シャペロンHsp70、翻訳伸長因子eEFなどからなる複合体がmRNAに結合することで、高濃度エタノールストレス下での優先的な翻訳が可能になることを強く示唆する結果が得られた。また、Rbp26に結合するmRNAの網羅的解析を通じて、BTN2以外の優先的に翻訳される遺伝子の有力な候補を得ることができた。翻訳抑制下での優先的 翻訳は、Rbp26などの「翻訳サポート因子」が転写と並行してプロモーター内のシス配列を指標にmRNA周辺へとリクルートされたのち、mRNAと結合して翻訳装置までmRNAをエスコートするのではないかと現時点では推測している。今後は、BTN2以外の優先的に翻訳される遺伝子を同定するとともに、それらの遺伝子のプロ モーター内に共通するコンセンサス配列の役割についても詳細な解析を進める予定である。また、高濃度バニリンストレスについては、優先的に翻訳される遺伝 子としてYLL056cを新たに同定することに成功した。リグノセルロース系バイオマスからのアルコール発酵に適した酵母株を構築する上で、YLL056cのプロモー ターは有用なツールだと考えられた。以上の成果については、学会発表を行い、一部は国際学術誌で原著論文として発表した。
2: おおむね順調に進展している
当初期待された分子機構を示唆する結果が得られたとともに、関連する新たな知見を得ることができた。また、研究成果を学術論文として公表することができた。
Rbp欠損株におけるmRNAの細胞内局在の検証本研究では、翻訳抑制下におけるmRNAの輸送や細胞質での局在制御にRbpが関与することを検証するために、 mRNA の細胞内局在を蛍光 in situ hybridization (FISH) 法などで解析する。ストレス下の各種rbp欠損株では、BTN2やHSP26などの優先的に翻訳されるmRNAがP-bodyやstress granule、核などに隔離されるのか検証する。また、すでに同定している相互作用因子の欠損株でも同様の解析を行い、局在制御に関与するのか検証する。得られた結果を基にして、Rbpの機能強化などを通じて、優先的翻訳の効率アップやストレス耐性の改善が可能か検討を行う。優先的翻訳機構を利用した発酵能の改善清酒酵母きょうかい11号株の高いエタノール耐性がアデニル酸シクラーゼをコードするCYR1の一塩基変異(CYR1G206A)によるものであることが 、連携研究者である(独)酒類総合研究所の赤尾健らおよび岩手大学の下飯仁教授らによって報告されている。また、エタノールの細胞外への排出を促すトランスポーターをコードするPDR18もエタノール耐性と発酵能維持に関与することが報告されている(Teixeira et al. Microb. Cell Fact., 2012)。これらの遺伝子の優先的発現が発酵能の向上に寄与することが強く期待されるため、詳細な検討を行う。 以上の解析を通じて得られた結果を取りまとめ、学術誌への英語原著論文の投稿や学会発表などを行う。
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