研究課題/領域番号 |
17H03796
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
芦内 誠 高知大学, 教育研究部総合科学系生命環境医学部門, 教授 (20271091)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 超広域環境微生物 / 環境適応因子 / ポリγグルタミン酸 / レアメタル(レアアース)バイオロジー / バイオツール化 |
研究実績の概要 |
堆肥から深海底までの地球環境に高度の適応した土壌細菌“巨大菌”にレアアース(特にジスプロシウム)を与えつつ培養すると、優位に増殖速度が増加することに加え、ポリγグルタミン酸(PGA)と呼ばれる有用バイオポリマーの生細胞当たりの生産能まで増大するという画期的な応答現象を発見した。レアメタル(レアアース)は、いわゆる重金属であることから、生物応答に関しては毒性や代謝抑制ありきの解析に焦点が絞られる中、本件は生物と重金属の新たな接点に焦点を当てる千載一遇の機会と判断した。技術的な部分ではその分子レベルでのエビデンスを得るための方法論確立を急ぐ必要があった。まずPGA増産現象に着目し、巨大菌と(レアアース応答性に乏しい)納豆菌のPGA合成遺伝子オペロン、特に発現制御を担う非翻訳領域を計算化学分析(二次構造形成による自由エネルギー変動など)に供した。今回、GC含量や構造遺伝子群の配置構成など、一般的な比較遺伝生化学上の類似性を示すが故に見落とされてきた実像が浮き彫りになった。具体的には、巨大菌においてのみ、バシラス属細菌の(多様な外因性ストレスや環境因子への応答を指揮する)グローバルレギュレータの中でも最上位に位置するDegU認識部位が複数個所見つかった。詳細分析を続けた。結果、推定転写開始点の約200塩基対上流には金属応答性リボスイッチ様の特殊塩基配列が見つかった。興味深いことに、ここにはDegU認識部位と重複する領域も存在した。PGA合成の環境因子制御に迫る”ホットスポット”の同定等、画期的な発見に繋がる。事実、巨大菌は高C/N比の富栄養下で炭素ベースのバイオプラスチックポリマーを蓄積するが、低C/N比かつ高塩条件に曝すと、一転してPGAを作りはじめる。外部刺激に応じて環境適応因子の代謝経路を転換する等、超広域環境微生物が備えるべき高度な適応戦略に、初めて分子解析のメスが入った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
PGA生産菌として最も有名な“納豆菌”にレアアース応答性が見つからないことが、当該研究の特殊性をさらに高めている。すなわち、もはや飼い慣らされた食品発酵微生物にとって環境の変化に対する鋭敏応答はそれほど必要ではないのであろう(育種という人為操作の中で脱落したと考えてもよい)。実際、納豆菌におけるPGAの生理学的意義は全く分かっていない(納豆PGAの場合、菌の生存戦略ではなく食品嗜好の観点から残されただけの存在)。このような状況はPGAを環境適応因子として捉えることを難しくしてきた。今回、超広域環境微生物“巨大菌”に焦点を当てたことがブレークスルーとなり、さらに分子レベルでのエビデンスの発見にも繋がった。かかる新知見を背景に、これまでなかった分析ツール(標的タンパク質や一塩基置換型のプライマーセットなど)やバイオツールの作製戦略(遺伝子組み換えやゲノム編集技術の応用など)が初年次の段階でほぼ整い、また一部は学会発表可能なレベルでの情報収集も進んだ。基礎研究レベルで順調な進展が見られる中、複数年にわたる計画の中でも最終段階としてきた応用研究(出口を意識した展開型研究)に至っては予想を超える進展が認められ、その学術レベルは国際的にも高い評価(本研究代表者ら(2018) Sci. Rep. 8, 4645:極限環境微生物ポリマーから実用機能材料を開発した先駆的研究との評価)を得た。以上の状況を鑑み、本件初年次に関しては「当初の計画以上に進展している」との評価に値する成果を得ることができたとの結論に達した。
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今後の研究の推進方策 |
初年次の成果は“起承転結”でいうところの「起」に相当する。当該年度は、地球土壌環境中にごく微量ながら広く存在しているとされる希土類(レアアース)のメタル(レアアース)バイオロジーの発展と充実に繋がる「承」の研究に取り組みながら、次年度以降の「転」に繋がる展開型研究も推進する。本件を“レアアースバイオエンジニアリング”とでもいうべき、産業応用を意識した新境界研究の幕開けにしたい。そのため、以下二つの中課題を設定した。
① PGA合成機能発現を司るレアアース依存誘導機構の分子解析:該応答因子の有力候補「DegU」のX線結晶構造解析等に係る基盤研究に取り組み、かかる構造生物学を前進させる。DegU:ジスプロシウム(Dy):推定調節DNA配列(Cap/5’-UTR)の分子間相互作用による遺伝子発現制御システムの存在について調査する(Dy存在時のDNA/RNAフットプリンティングやShiらのリボスイッチ解析法など)。遺伝子発現制御を司る新たな構造モチーフを探索するとともに、かかる調節機構の核心に迫る。
② PGA合成機能発現を司るレアアース依存誘導機構の応用展開:レアメタル産業分野で求められる環境調和指向の効率回収技術や高感度検出技術の創出を目指す。具体的には、巨大菌表層PGAのDyに対する協同吸着能が最大に達する温度域で発生するものと予想される“生菌体レベルでの急激な凝集反応”を利用し、ジスプロシウム選択的回収技術の確立等、より実践的な応用研究に取り組む。あわせて、前年度からの継続課題“レアアース全元素を対象にPGAの識別性能(協同吸着能)と温度依存性に関する化学分析”を急ぐ。バイオツールを利用した“画期的なレアアース識別法の開発”に繋がる化学根拠の抽出精査、これらを活かした新戦略・ブレークスルーについても追求する。
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