研究課題
麹菌やその近縁種のゲノム塩基配列および発現情報を収集して、PKSやNRPSなどのコア遺伝子の遺伝子配列情報に依存しない方法を含む二次代謝系遺伝子クラスタの予測ツール、機能既知の遺伝子に対する相同性、KOGなどの機能分類、モチーフ配列の保存情報などを利用して、機能未知の遺伝子を含む二代謝系と推定される遺伝子の母集合を作製した。これにより、機能・発現に関する確実性の情報が付加された状態の二次代謝系遺伝子が収集された。また、ligD遺伝子を破壊して相同組換え効率を向上させた麹菌を利用して、ストレス応答などに関わる主要な既知のシグナル伝達系の遺伝子の破壊株を作製して、遺伝子発現などの性質の解析を行った。麹菌による二次代謝系遺伝子の発現の効率的なモニタリングを目的として、GFP、ルシフェラーゼなどを用いたレポーター系を作製して、比較的発現強度が高いと考えられる代表的な遺伝子のプロモーターの下流に接続して形質転換し、発現強度のモニタリングの評価を行った。また、モデル解析系として、これらのレポーターを5種類程度の二次代謝系およびその近傍に位置する代謝系遺伝子のプロモーターに接続したDNA断片を設計・作製した。これらのDNA断片を導入した形質転換体を用いて、一般的に二次代謝系を誘導することが知られている植物固形成分入りの培地を含む種々の条件で培養することにより、発現強度のモニタリングの評価を行った。GFPによるモニタリングでは、同遺伝子に核内移行シグナルを付加することにより、核を特異的に染色する色素による観察と合わせて解析することにより、菌糸や油滴と思われる細胞内顆粒などなどからの自家蛍光と区別して、比較的正確な測定が可能であることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
麹菌の形質転換は純化も含めると1ヶ月以上の時間を要すること、DNA断片の接続順序や向きなどによって形質転換体が取得できない可能性が低くないことなどから、多数のレポーター株の効率的な作製は容易ではないと考えられた。そこで、DNA断片の構築は主としてFusion PCRで行うこととし、正確性の高いDNAポリメラーゼを利用することにより、多数のDNA断片を短時間で効率的に作製する方法を確立した。また、このためのプライマーの設計方法についても、柔軟性の高い遺伝子解析ソフトウェアを用い、設定ファイルや配列の管理方法などを工夫することにより、短時間で正確に多数のプライマーを設計する方法、さらに、設計・作製したDNA断片について、塩基配列だけでなくアノテーション情報を付加した状態での情報の保存・整理の方法を確立した。今後は、数十程度の異なる二次代謝系遺伝子を標的としたレポーター株の作製を計画しているが、上記の方法の利用により、今後の研究の進捗を期待している。
予測された多数の二次代謝系遺伝子について、発現制御パターンが異なると考えられる既知の二次代謝系遺伝子クラスタを優先的に選択すること、複数のツールで予測された二次代謝系遺伝子の優先度を上げるなどの方策を採ることにより、有効な情報の取得が期待される生物実験の確率の向上を図る。これにより、最終年度に多数の培養条件による二次代謝系遺伝子の発現制御を解析するためのレポーター株の多くについて、今年度中の作製を目指す。また、レポーター導入の宿主株として、これまでに作製した麹菌シグナル伝達系遺伝子破壊株を用いて、麹菌を宿主とした場合との転写制御様式の違いを比較する。さらに、塩基配列の相同性が高い一方で、二次代謝系遺伝子の発現強度が麹菌と比較して明らかに高いことが知られているAspergillus flavusをレポーター導入の宿主として用いることにより、レポーターの応答性の向上と近縁種間での転写制御様式の違いを解析する。これらにより、二次代謝系遺伝子の転写制御の解明に関する情報の質と量の両面からの向上を図る。実験技術的には、GFPによるレポーター株の作製と並行して、現状では顕微鏡観察で行っているレポーターの発現解析について、マイクロプレートリーダーなどを用いた簡便化・効率化を実現することを目的として、分泌型のルシフェラーゼを用いたレポーター系の構築を検討する。また、作製されたレポーター株を用いて、順次、様々な培養条件による二次代謝系遺伝子の発現制御パターンの解析を進める。
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