1)Pib2によるグルタミン検知機構の解析 大腸菌で発現・精製したPib2と、酵母から精製したTORC1のみを用いて、グルタミンに依存したPib2とTORC1の相互作用をin vitroで再現することができたため、Pib2自体、もしくはPib2とTORC1の複合体がグルタミンセンサーであることがわかった。また、Pib2がグルタミンに結合して構造を変えるか否かを検討するために、精製したPib2をdifferential scanning calorimetry(DSC)に供したところ、生理的濃度のグルタミンの添加により熱変性に伴うエンタルピー変化の増大が観測された。この変化は、D-グルタミンやアスパラギンで観測されず、L-グルタミンに特異的であった。これらのことから、Pib2がグルタミンセンサーの本体であると結論した。また、Pib2はin vitroで液滴(liquid droplet)を形成するが、その挙動はグルタミンの有無で影響を受けなかったことから、液滴形成はグルタミン検知には直接は関係しないと考えられる。 2)Pib2によるTORC1活性化機構の解析 グルタミンセンサーであるPib2の欠失変異体を用いた解析から、tailモチーフはグルタミン応答性には必須ではなく、TORC1活性化には必須であることを見出した。また、Pib2の活性化型変異体をスクリーニングしたところ、得られた変異体はいずれもtailモチーフに点変異を有していた。さらに、これらの活性化型変異体は、グルタミン検知能ではなくTORC1活性化能が亢進していることをin vitroで示した。これらのことから、tailモチーフがTORC1を直接活性化することが示唆された。また、この変異体を用いることで、グルタミン応答性のTORC1活性化をin vitroで再構成することに成功した。
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