研究課題
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ(CPT1)は、細胞質中のアシルCoAをアシルカルニチンへと変換することにより長鎖脂肪酸のミトコンドリア内への輸送を行う酵素である。CPT1はミトコンドリア内への長鎖脂肪酸の輸送および引き続くβ酸化の律速酵素として働き、エネルギー代謝制御の中心的な役割を担うことから同酵素の哺乳動物における欠損は胎生致死をもたらす。一般に、炭素鎖12までの短・中鎖脂肪酸はCPT1非依存的にミトコンドリアへ輸送されるとされるが、その輸送機構の詳細及び制御機構は明らかではなく、またミトコンドリアの脂肪酸代謝とその制御機構についても未だ数多くの不明な点が残されている。昆虫は現存する動物種の90%以上を占め、その進化の過程で極めて多様かつ優れた生理システムと環境適応能力を獲得して来ている。例えば、ショウジョウバエが飛翔する際の単位重量あたりの代謝率はヒト運動時の10倍以上にも達し、その主なエネルギー源は脂質代謝によることから、極めてエネルギー効率の高い脂肪酸代謝機構を獲得したと想定されるが、その実体は不明である。申請者らは、ミトコンドリア内への脂肪酸輸送に必須と考えられていたカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ(CPT1)を完全欠損したショウジョウバエが、脂質・エネルギー代謝に全く異常を示さないことを見出した。この観察を契機に、CPT1経路を代替するミトコンドリアへの新たな脂肪酸輸送経路を探索するスクリーニング系を確立し、約80の候補遺伝子より輸送基質が未知のミトコンドリアSolute carrier (SLC)トランスポーターであるSLC25-FATを同定した。
2: おおむね順調に進展している
ショウジョウバエの分子遺伝学的手法を駆使することにより、ミトコンドリアへの新たな脂肪酸輸送に関わるタンパク質を同定することに成功した。当該タンパク質をコードする遺伝子の一塩基多型は肥満との相関が報告されており、同分子が哺乳動物における脂肪酸代謝にも深く関与すると考えられる。
<SLC25-FATタンパク質のミトコンドリアにおける局在の解明>5 kDa程度の分子を透過するミトコンドリア外膜と比較して、ミトコンドリア内膜の透過性は低い。このため、脂肪酸のβ酸化が行われるミトンドリア内部(マトリクス)へ脂肪酸を輸送するためには、脂肪酸がミトコンドリア内膜を通過することが重要である。このため、SLC25-FATの脂肪酸代謝における役割を明らかにするためには、SLC25-FATのミトコンドリアにおける局在を明らかにする必要がある。ショウジョウバエ培養細胞から単離したミトコンドリアの内膜と外膜をショ糖密度勾配遠心で分画した解析により、SLC25-FATは主にミトコンドリア内膜に局在することが強く示唆されている。そこで、本年度はミトコンドリアマトリクスに発現させたAPEX2タンパク質によりミトコンドリア内膜タンパク質を特異的にビオチン化修飾することにより、SLC25-FATのミトコンドリア内での局在を評価する。<SLC25-FATタンパク質に依存したミトコンドリア脂肪酸輸送機構の解析>前年度に、CRISPR/Cas9システムを用いてCPT1を欠損したショウジョウバエ培養細胞株を樹立した。パルミトイルCoAを基質とした酵素活性評価により、このCPT1欠損細胞がCPT1活性を完全に欠失していることを確認している。そこで、本年度はCPT1欠損細胞を用いてSLC25-FATに依存した脂肪酸輸送活性および基質特異性の評価を行う。前者の解析は前年度に樹立した単離ミトコンドリアへの蛍光標識脂肪酸アナログの輸送測定により行う。後者はβ酸化に依存した酸素消費量を脂肪酸の分子種ごとにフラックスアナライザーを用いて解析することにより、SLC25-FATの脂肪酸種ごとの脂質代謝への寄与を明らかにする。
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Carotenoid Science
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