研究課題/領域番号 |
17H03808
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
亀山 昭彦 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 上級主任研究員 (80415661)
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研究分担者 |
佐藤 隆 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (90371046)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 糖鎖遊離法 / 糖鎖ライブラリー / グライコミクス / 蛍光標識 |
研究実績の概要 |
腫瘍や幹細胞などの新規マーカー探索および感染や免疫反応の分子病理学的解明において、迅速簡便な糖鎖解析技術であるグライコミクスは必須の技術となりつつある。しかし現在のグライコミクスは主にN-型糖鎖を対象としており、もう一つの糖鎖種であるO-型糖鎖の分析については40年以上進歩しておらず新たな技術革新が切望されている。最近、研究代表者はO-型糖鎖の新規遊離法を発見し、従来より格段に微量な分離検出を可能とした。これをグライコミクスへ応用するためには分離したO-型糖鎖の簡便な同定法の開発が必須である。そこで本研究では、O-型糖鎖の大規模ライブラリーを作成し、HPLC, CEおよびタンデム質量分析における各糖鎖の分析固有値を蓄積して糖鎖同定のための新たな技術基盤を構築することを目的としている。 平成30年度は、酵素合成によるO-型糖鎖ライブラリーの充実を図るべく、平成29年度に調製したFmocコア4スレオニンを基質として糖転移酵素固定ビーズによる糖鎖伸長反応を検討した。糖転移反応は問題なく進行したが、糖鎖伸長された生成物から糖鎖を遊離しようとしたところ、最近開発したO-型糖鎖の新規遊離法では糖鎖が遊離できないことが判明した。そこで、グリコシル化されたスレオニン誘導体から糖鎖を温和な条件で遊離させる新たな反応スキームについて検討を行った。また、簡便迅速にライブラリーを得るためには生成物をTLCで分取できることが望ましい。微量の試料の検出には目的化合物に蛍光性を付与することが好ましいが、Fmoc基の蛍光波長は紫外部であり肉眼ではTLC上のバンドを蛍光検出できないこともスキーム変更の理由の一つとなった。種々検討の結果、紫外線照射により肉眼で蛍光を確認できる蛍光性基をグリコシル化スレオニンのアミノ基に導入し、酵素による糖鎖伸長後に温和な反応による糖鎖遊離を可能とする新たな方法論を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、独自に開発したO-型糖鎖の新規遊離法を利用して市販の糖タンパク質であるフェツイン、ウシ顎下腺ムチンおよびブタ胃ムチンからO-型糖鎖を遊離後、蛍光標識して分離精製した20種類のO-型糖鎖ライブラリーを構築した。さらに、各種糖転移酵素を用いたO-型糖鎖合成によりライブラリーを拡充するため、産総研ヒト糖鎖遺伝子ライブラリーを利用した糖転移酵素固定化ビーズの作成を開始した。これまでにライブラリーの基幹構造の合成に必要な、3ガラクトース転移酵素、β4ガラクトース転移酵素、およびシアル酸を還元末端のGalNAc6位に転移させるST6GalNAc1の固定化ビーズを作成している。ライブラリー合成のための基質としてN末端をFmoc化したコア4(GlcNAcβ1-3(GlcNAcβ1-6)GalNAc)スレオニンを調製した。平成30年度は、この基質を用いた糖鎖ライブラリー合成を進める予定であったが、開発した糖鎖遊離反応がFmoc基を分解する結果、糖鎖が遊離できないという問題があることが判り、酵素合成は中断した。一方で、新たな糖鎖遊離反応スキームを確立すべく種々検討を行い、中性条件で糖鎖を遊離する方法を確立した。この方法は蛍光性を利用して目視でTLCから生成物を単離することができる方法であり、迅速なライブラリー構築が可能であると考えられる。以上のようにスキーム変更により計画はやや遅れたものの、それを挽回できる新たなスキームを確立できたことから計画はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、引き続きO-結合型糖鎖ライブラリーの充実を図るとともに、ライブラリー内の各O-結合型糖鎖についてキャピラリー電気泳動および多段階タンデム質量分析による固有値の蓄積を進める。具体的には①各種リコンビナント糖転移酵素固定化ビーズの調製、②ムチン型母核(コア1~コア4)スレオニンを出発原料とするグリコシル化スレオニンライブラリーの作成、③グリコシル化スレオニンライブラリーから蛍光標識O-結合型糖鎖ライブラリーへの変換、④蛍光標識O-結合型糖鎖ライブラリーのHPLC、キャピラリー電気泳動、多段階タンデム質量分析のデータ取得を進めていく。質量分析についてはO-結合型糖鎖ライブラリーの各糖鎖を完全メチル化し、完全メチル化した糖鎖の多段階タンデム質量分析スペクトルについてもデータを取得する。
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